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SF・ファンタジー・ホラー

にゃんと素敵な東雲市役所猫支店 いとしいとしというこころ編

   

篠原 みづきが作家を目指した、その理由とは――?
高校時代のみづきを現在のみづきが回想する『いとしいとしというこころ』編

 

 深夜。消されては書かれる原稿用紙を前に思う。
 私はどうしてこの道を選んだのかって。
 もっと別の道もあったはずなのに、どうしてこの道なんだろうかと。
 私の家はごく普通の中流家庭。そして私のように、ある意味ヤクザな商売を生業にしている者は誰もいない。
 結婚式や法事に出席して、篠原の親族一同の前に出るたびに「みづきは変わり者」と言われる。名前だけは立派な職業だけど、芽も出ない。いい年して親の臑を囓っていると。
 だから余計に考える。
 どうしてそこまでして私は作家という職業に固執するんだろうか。
 考えているうちにも慣れ親しんだキーボードは文字を吐き出していく。
 ラストスパートを決め始めた私は、ものの三十分で原稿用紙を埋め尽くす。
 しかし、しょぼしょぼした目で何度か読み返して今書いたところを全部破棄。プロットとにらめっこしてタンブラーに入れた番茶を飲み、思いつくままに改善点のメモを取る。
 どうしてこの道を選んだのか。
 それはきっと、高校時代のあの日に戻るんだろう。

 私の通っていた秋河高校は、ごくごく普通の共学校だった。家から自転車で二十分。雨の日は辛いけど、晴れとくもりならちょっとしたサイクリング気分が楽しめる。もっとも私は遅刻魔だったから、サイクリング気分というよりロードレース気分だったけど。
 あれは……もう十四年も昔になる。
 花の女子高生となった私は、秋河高校で赤い髪をした目つきの悪い男の子と会った。
 名はミヤビ。男の子。クラスメイト。後ろの席。本当の名前と苗字は忘れた。本人も忘れたと言っていたから、きっとそうなんだろう。
 彼は私のことをシノハラと呼んだ。それが、漢字やひらがなのしのはらではなく、どうやってもカタカナにしかなりそうにない、とんがった呼び方だった。
 いつもミヤビはかったるそうに、私の背を指でつつき、「シノハラー」と呼びかけてきた。
 最初は、目をつけられて絡まれているのかと思った。
 なぜって、ミヤビの髪の毛は真っ赤に染められて、おまけにいくつもピアスを開けていたからだ。入学初日だというのに学ランを着崩し、薄いクリーム色のベストからワイシャツをはみ出させ、当時流行った腰パンだった。だから、彼の指先が背中に食い込むのをよそにずっと無視して下を向いていた。

 

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