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ラブストーリー

Love cannot be compelled 1

   

好きだけど、『愛してない』。
その事に気付きながらも、付き合っていた男が自分の親友と腕を組んで歩いている姿に、ただのプライドが怒りを呼び起こす。
その修羅場に一人の男がわざわざ巻き込まれた。
だがその男は、かつて蘭を苛めていた、幼馴染みだったと知り…。

 

 ふらりと入った、落ち着いた雰囲気のカフェ。
 窓際のテーブル席に落ち着いた清野蘭<<せいの らん>>は、頬杖付いて長い溜息をついた。
 装飾窓の向こうに視線を投げてから人の気配を感じて頬杖を外すと、目の前に静かに置かれたガラスコップの水を見詰めた。
「ご注文がお決まりになられましたら……」
「アイスミルクティー……、お願いします」
 店員が言い終わらない内に口を挟むと、再び頬杖付いて窓の外に視線を向けた。マニュアル通りの言葉を残してテーブルから離れて行ったのを感じて、蘭はもう一度溜息ついた。
(何でなのかな……。好きなのにね……)
 つい先程まで一緒に居た恋人、健斗<<けんと>>と過ごした時間は、全くと言っていいほど気持ちの高揚がなかった。これは今に始まった事ではない。もう結構前からだ。
 二年も付き合ったからマンネリとも思ったが、そうではない事に気づいていた。ただその言葉を、自身の頭から外していただけだ。

『愛してない』

 ようやく自身にそれを言ってやった事で、蘭の気持ちがスッと軽くなった。
 好きだが、愛してはいなかった、それだけ。だからこそ、もう二十も半ばの二人に「結婚」という未来が見えなかった。
 結婚を前提にしていたわけではなかったが、付き合っていく中でおのずとそんな話になってもおかしくはなかったのに、一度もその話題に触れた事はない。そしてそれは、蘭自身がアピールする事もなく、健斗もまたその話には触れなかった。
 健斗はいつも、どこかフラフラとした印象を持っている男だった。そんな男だったから、現実として見えてこなかったのかもしれない。そういえば過去に女の影が見えた事もあったなと、どこか他人事のように思い出していると、コトンとテーブルにグラスが置かれた。
「アイスミルクティーになります」
 反射的に頬杖を外してイスの背に体を預けると、蘭は微かに頭を下げた。
 店員が伝票を置いていなくなると、預けていた背を持ち上げてグラスにストローを差し込んだ。
「はぁっ……!」
 大袈裟なほどの溜息が聞こえて、蘭の後ろのイスに座る音が聞こえた。
「暑っ……」
 小さな声で聞こえた呟きに、蘭は同じように心の中で思った。
 まだ九月も始まったばかりだ。
 昔は避暑地と言われた北海道も、今じゃ関東並みに気温が上がる日があったりする。下手すれば、関東よりも気温が上がる時だってあった。
 今日も残暑が厳しく、仕事着であるスーツなんて着ていたら、とんでもない汗が全身から噴出していただろう。幸いにも今日は仕事休みだったから、蘭の格好は涼しげなマキシワンピだ。上に羽織っているカーディガンは、レース編みになっている。
 店内はクーラーが効いているし、外から入って来ても直ぐに汗が引いてくれた。
 ミルクティーを喉に流し込んで、ヒンヤリとした冷たさを体内で感じていると、後ろから携帯の着信音が鳴った。
「ったく、煩ぇ……」
 舌打ちが聞こえて、思わず肩越しに振り向いてしまった蘭は、直ぐに顔を戻した。スーツを着込んだ男は、面倒臭そうな仕草で携帯を掴んで耳に当てていた。
(どこかで会った……?)
 記憶に残っているようないないような、なんだか釈然としない思いに首を傾げながら、静かにミルクティーを飲んだ。すると、男が電話で会話し始めた。
「貴様に割く時間なんてあるわけねぇだろ。言ったはずだ、一回きりだってな。そんな体で俺を堕とせるわけねぇだろ」
 店の静けさを考えての小声だったのだろうが、背中にいた蘭にはハッキリと聞こえてしまった言葉。
(なに、この男……。地獄行き決定……。女を遊び道具に考えてんじゃないわよ……)
 およそこのカフェには似つかわしくない言葉に、蘭は苦い顔をする。そして、気が付けば大袈裟なほどの溜息が零れていた。
 一人の女に落ち着かない男が、この世に後どれほどいるのだと、窓の外に視線を投げた。
「……っ!? けっ…」
 思わず息を呑んだ。視線の先に見えたのは、さっきまでデートをしていたはずの健斗。その横には、高校時代からの親友だったはずの千沙。ふざけながら歩いていく二人の間に距離は無かった。千沙の腕が、健斗に絡まっているからだ。
 半ば呆然と、しかし女としてのプライドが、蘭の下唇を噛ませた。
 知らなかったのは自分だけかと、変な笑いも込み上げる。そして、自分が健斗への気持ちを再確認していたにも関わらず、込み上げてくるのは怒り。
 好きだけども愛してはいない、そう思った。それに間違いはなかった。なのに、怒りが込み上げるのは、ただのプライド。
 どうして、自分よりあの子を選んだのか。自分とまだ付き合っているというのに、他の女と平行して付き合っていた。要は二股、そう思った時、蘭は目に溜まってしまった涙を手の平に拭わせてから、バッグを持って伝票を掴んだ。

 

-ラブストーリー


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