幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

8月のエンドロール 5

   

メグミと共に事件に関わったカスガイ タイゾウは、罰を与えられないことに苦しみ、悩む。そしてシオリに会いに行き、そこで気づいたこととは?
カスガイ タイゾウの価値とは――。
『echo』配信

 

echo

「なあ、あんた。なんでメグミの家から出て行ったんだ?」
 事件以来、眠り続けるシオリに尋ねた。
 夜。比野市の某病院。俺はシオリのもとを訪れていた。
 話は今日の午前中に遡る。

「はい、じゃあカスガイ タイゾウ君。これで終わりです。協力ありがとうございました。今、身辺がうるさいだろうけど、少し我慢すれば終わるから」
 調書を整えた刑事に、退出を促される。
 メグミとの関係から説明し、あの時、メグミに何を言われて、どうして動画を撮影してネットにあげたかを事細かに説明した結果が、刑事のこの言葉だった。 
「は?」
「いや、だから帰っていいよ。今日で終わり」
 椅子から腰を浮かしかけ、いや、まだだろと腰をおろした俺に、刑事は面倒くさそうに言った。
「帰りなさい。君に用はない」
 刑事は部屋に入ってきた別の刑事と、まったく関係のない話をしている。
 ずどんと衝撃を受けて、胸に小さな穴が開いた気がした。
 それまで俺がいた地続きの日常に強制的に線引きをされ、ここは立入禁止区域ですとばかりに勝手にざりざりと削り取られた。
直撃するはずだった決定的な物がこれっぽっちもかすりもせず、通り過ぎてしまった。
 それが怖くなって、へらへらと笑って尋ねた。
「え、ほんと、なんもないんスか……いや、あるでしょ。ガッコのパソコンからテスト問題盗んでるし」
「ないよ」
 君がどう言おうと、ほら、まあ、大人の事情だからと刑事はそんな顔をした。
 嘘だろ。
「じゃあ、俺、どうすりゃいいんスか」
「とりあえず家に帰りなさい」
 お前のことなんか知るかと言いたげだった。
 それでも出て行こうとしない俺に、刑事はわざとらしく溜息をついて、大人の事情なんだよねと今度は言葉で繰り返した。
「…………」
 奥歯を痛いほど噛んでも、何も起こらなかった。
 そのとき気づいた。
 メグミもこの警察署にいるはずだ。
「あの」
「アイザワ メグミさんについては何も教えられないからね」
 口を開いたところに、抑え込む一言がきて、ぐっと黙った。
「親御さんに迷惑かけないようにね」
 刑事は嫌味たっぷりに言うと、出て行かない俺を放り出して、一人で出て行ってしまった。
 怒りで握り拳がぶるぶる震え、やがて怒りの熱は胸に小さく開いた穴に吸い込まれていった。
 罰せられることを覚悟していたのに、俺はあっさり無罪放免された。
 取調中取り上げられていたスマホが返される。電源を入れると、恐ろしいほどの着信とメールがあった。ひとつひとつ見ていたが、やがて嫌になって全部消した。
『犯罪者』『キモイ』『学校来るな』
 内容はおおむねその三つだった。スマホの電源を切ると、炎天下に放り出された俺は、迎えに来ていた――というより待っていた――母と一緒に帰らされた。
「良かったわね。なにもなくて」
 ハンドルを握る母は、暢気に言う。
 なにもないことが、いいことなのか?
 俺は軽犯罪を犯しているし、今回のことだって大学推薦の取り消しと停学くらいにはなるはずだ。
 なのに、なぜ、これでいいんだ?

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第34話「それでも――――」

   2017/11/20

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】15

   2017/11/20

ロボット育児日記39

   2017/11/17

忠実な部下たち

   2017/11/17

モモヨ文具店 開店中<36> ~帰り行く者~

   2017/11/16