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歴史・時代

薔薇と毒薬 4

   

架空ヒストリカルロマン

ノイッシュの邸へ忍び込む算段を立てようと、マリエットは邸の外から中を覗った。そのとき。

そのとき木の下から、突然声が聞こえた。
「危ない!」
「え?」
 驚いてマリエットは下を見た。そのとき、ぱき、と音がして、マリエットの座っていた枝がしなり根元から折れた。

 

 次の日。離宮に呼ばれたマリエットは、敷地内で利用される馬車を使わずに、目的地まで歩いた。馬車係には美しい庭園を散策したいと言ったのだが、そもそも馬車で十分程度の距離を移動するのに、何故自分の足を使わないのかがわからない。
「貴族の考えることって、庶民とはかけ離れてるんだわ」
 少し強くなってきた春の陽射しを遮るために、つばの広い帽子をかぶり、マリエットは美しい湖畔を歩いた。
 立ち止まって空を仰ぎ、見上げた木立からの木漏れ日に目を細める。こんな美しい景色は見たことがない。
 その若葉の色は、昨日近くで見た、ノイッシュ王子の瞳を思い起こさせた。きらきら光る木漏れ日は彼の髪の色のよう。マリエットを見る目はまっすぐで、翠玉の瞳の中には、ひとつの醜い陰りもないように見えた。
 このような美しい場所で、きれいなものばかりを見て育ったなら、あのようにくもりない、清爽な佇まいを持てるのだろうか。
「あたしとは正反対ね」
 七色にかがやく水滴がついた下生えの草を踏みながら、マリエットはつぶやいた。そして顔を上げる。
 自分の恵まれなかった出自を嘆いたりはしない。自分はいつだって、未来を掴むために精一杯のことをしてきたのだから。生きていたくて、歌っていたくて、そのために。

 

-歴史・時代


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