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ラブストーリー

Love cannot be compelled 2

   

信長との突然の再会に、気持ちが乱されていた蘭。
そんな時に、クライアントからの電話が蘭を更に動揺させた。
確かに送ったはずのデータが、真っ白だという。
ちゃんと確認して送ったはずのデータ。直ぐに対応しようと自分の保存しているデータを確認するが、保存しているはずのCDには、何も残っていなかった。
誰かが意図的に消したとしか思えない、それに…。

 

 翌朝、少し痛む頭を押さえながら、蘭はコーヒーを淹れてテーブルに着いた。何だか悪寒を感じながらも、一口飲んでからスーツに着替えていると、クシュンッとくしゃみが出た。
「……あーー、風邪かなぁ…」
 鼻を押さえながら着替え終わると、メイク道具を取り出してもう一度テーブルに戻った。
 鏡の中の自分を見れば、目の下にクマが出来ている。
 昨夜、ちゃんと眠ったつもりだったが、頭の中で色んな事を考えすぎて、眠れていなかったようだ。そのクマを隠しながらメイクを終えると、コーヒーを飲んで携帯を掴んだ。
 携帯を見詰めながら、蘭は目を伏せた。
 登録してしまったものの、これを使う機会などあるのだろうかと、鞄に仕舞った。

 出社して自分のデスクに落ち着いた蘭は、短く息を吐き出してから、自分に回されているリサーチ案を手に取った。すると、クライアント名が『御堂グループ』になっていて、あからさまに顔を顰めた。
 それと同時に鳴り響いた内線電話。
 一瞬ビクつきながら警戒して取った電話は、またしても外線からだった。
『清野さん宛てです』
 その瞬間に、信長だと思った。なんだかんだ言っても、また電話を掛けてきたのだと、少しの怒りが込み上げた。
「清野ですが」
 わざとらしく嫌味ったらしくそう言ってやると、まったく違う声が聞こえて、些か慌てた。
『あの…、シンデレラの美月と申します…。半月ほど前に……、お願いしていたのですが……』
「え、あっ、お世話になっておりますっ!!」
 慌てて、見えもしないのに頭を下げながら、電話を掛けてきた女性誌のクライアントに、勤めて明るい声を出した蘭。だが、次に言われた言葉で、蘭の顔色が変わった。
『あの、先週末でお願いしていたデータなんですが、何も入っていなかったのですが。もしかして間違えて送られたのかと思って』
「え? そんなっ……、ちゃんと確認して……。と、とりあえずっ、そのメモリーを送り返していただけますか? それと、こちらに保存しているデータをもう一度すぐに送りますっ」
 電話を受けながら、蘭は自分のパソコンを立ち上げて、先週のデータCDを読み込ませた。
『それじゃ、すぐにこちらも送ります。時間が無いので、宜しくお願いします』
「分かりました、申し訳ありませんでした」
 受話器を置いて、直ぐにファイルの中身を確認する。すると、何故かシンデレラのデータが無い。ファイル名がすぐに分かるように、クライアントの子音をファイル名にしている蘭は、『C』の欄を何度も見返すが、『CNDRLL』の文字が見当たらない。
「……なんで、え? どうしてっ……」
「どうしたんですか、先輩」
 隣のデスクにいる、二年後輩にあたる鈴村悟<<すずむら さとる>>が、蘭のパソコンを覗き込んだ。その時、「何があったのかなぁ?」と聞きなれた嫌味ったらしい声が響いた。その声にカチンときた蘭は、中村を思い切り睨みつけて無視した。
 カチカチとマウスの音だけが耳に煩く纏わり付く。先週作った全てのデータを片っ端から開いて、内容を確認していった。もしかして、ファイル名を変えてしまっていたかもしれないと、ありえない失敗に縋るように。
「先輩、落ち着いて下さい。どうしたのか分かれば、何か手伝えますから」
 そっと蘭に耳打ちするようにして呟いた悟に、蘭はチラリとだけ目を向けた。直ぐに視線を戻したが、一瞬揺らいだ視界に、手を止めて目頭を押さえた。
「先輩」
 もう一度呼ばれて軽く頭を振った蘭は、無理に笑みを零して「大丈夫」とパソコンに目を移した。

 

-ラブストーリー


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