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歴史・時代

薔薇と毒薬 5

   

架空ヒストリカルロマン

「歌い続けたいんだろう」
 グレイのつめたい指が、マリエットの喉をすっと撫でた。
「…………っ」
 その感触に、背筋がぞくりとして、マリエットは微かに身をふるわせた。
「今更ただの少女の顔が出来るなどと思うな。必要とあらば親でも恋人でも即座に殺す。それがリアンドールだ。おまえは何のためにリアンドールになりたいと言った?」

 

 邸内に入ると、フリーデ妃の寝室へと案内され、マリエットはそこで数曲歌った。歌い終えると、フリーデはとても喜んでくれた。
「歌なんて、もう何年も聴いていなかったわ」
 ベッドの天蓋から掛けられた薄手の絹の覆いを片側に寄せて、フリーデはマリエットに顔を見せてくれた。その肌は病的に白く、首筋は骨が浮き出るほどに痩せていて、マリエットは一瞬言葉を失った。けれどマリエットに微笑みかけるフリーデの表情は、病に蝕まれているとは思えぬほど、温かく穏やかだった。
「母はもう長いこと伏せっていて、この邸から何年も出ていないんだ。客人を迎えるのも久しぶりだったんだ。来てくれてありがとう」
 ノイッシュの言葉に、マリエットの胸が痛んだ。
 自分は善意で歌いに来たわけではない。任務の下調べを兼ねて来たのだというのに。
 ここでそのような感情を顔に出してはならないと、そう自分を戒めながらも、顔がこわばってしまう。湧きあがる罪悪感に圧し潰されそうになる。
 思わずマリエットは、お守りのように常に胸元に下げている片羽のペンダントを、いつもの癖で握った。

 

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