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ラブストーリー

Love cannot be compelled 3

   

データを意図的に消されたと分かった蘭は、誰の仕業か見当はついていた。だが、証拠が無い以上どうにもできなかった。
気だるい体を感じながらも、悟が掛けてきた電話に心配かけて悪かったなと思ったのだが、何か違和感を感じて、電話を切ってから心に変な靄が掛かった。
その靄が、ある種の恐怖感に変わっていく蘭。
その時、またしても携帯が鳴り響いた…。

 

 アラームで目が覚めた蘭は、開け辛い目に溜息を零した。
 ゆっくりと起き上がり項垂れる。何故、データを消すなんて卑怯な事をされたのか。その犯人の予想はついている。おそらく間違ってはいないだろう。
 ただ、それほどまでに自分は邪魔な存在なのだろうか。一生懸命仕事に打ち込んできただけなのに…、そう思うとやはり悔しくなった。
 与えられた仕事をきちんとこなす事は、悪い事なのか。それならば、手抜きしてクレームがついて、その責任を上司になすりつければいいのだろうか。
「もう、やだ……」
 再び込み上げてきた涙を手の平に拭わせていると、携帯が着信を告げた。床に転がっている携帯を取ると、画面には知らない携帯電話の番号が出ていた。誰かと思いながらも警戒して電話にでてみると、悟からだった。
『あ、先輩。起きてましたか?』
 ひどく優しい声に、蘭は少しばかり鼻を啜ってから、わざと明るい声を出した。
「起きてたよ。昨日はごめんね、それとありがとう」
『体の方は、大丈夫ですか?』
 悟の心配そうな声を聞いて、努めて明るい声を出しながら大丈夫だと言うと、長い溜息が聞こえて一瞬身構えた。
『それならいいですけど…。とりあえず、昨日の内にデータは出しておきました。安心してください。……それで、……。いや、とりあえず今日は欠席の届け出しておきましたから、ゆっくり休んで下さい』
 何かを言いかけた悟に疑問を抱いたが、あえてそこには触れずに蘭は電話を切った。
 携帯電話を握り締めながらベッドに再び転がった蘭は、遠くに視線を投げた。今日一日休んだからといって、今までのように、仕事に打ち込む事が出来ないように感じていた。
 中村からの嫌味などで心が折れる事はなかったが、今回大事なデータを消された事は、蘭にとってかなりのダメージがあった。一生懸命やった事が一瞬で消されてしまう。そこにつぎ込んだ努力を、たかが気に入らないという理由で簡単に消されてしまうのなら…。
(働きたくない……。自分の時間を削ってまでやってきたアタシって…)
 そりが合わない人間などどこにでもいるものだが、もうあの会社で働くのは無理だと思った。このまま辞めれば、中村の嘲笑う姿が目に浮かぶ。だが、それよりもあの顔を見る事すら嫌になっていた。
 ムクリと起き上がった蘭は、辞表を書いて違う仕事を見つけよう、そう思った。そして、短く息を吐き出してから、ネットで一先ず探してみようとパソコンをテーブルに出した。
 今日一日職を探しながら家から出ない事を決めて、全ての買い物を済ませてしまおうと、近くのコンビニに出掛ける準備を始めた。

 

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