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セーフティエリア・セーフティバトル

   

辰巳 昭吾は、交通事故からも犯罪もほぼ皆無という街、「セーフティエリア」の住人である。

侵入者対策も万全で、「命を奪わない」ことを絶対としつつ、平穏と秩序が保たれていた。

そんな平和なエリアの中と外では、「安全な戦争」が隆盛を極めていた。

兵器を操って敵を倒すというオーソドックスなものではあるが、実際に兵器を遠隔操作して戦う本格的なものだ。

国家の威信や権益にも直結し、撃破数に応じて賞金が貰えるため、街の財政を支える要素にもなっている。

その日も辰巳は、慣れた機体を操り、順調に敵を倒していたのだが……

 

「おうい、昭吾。第三ブロックで侵入者だってよ。この反応からして、人間じゃなくて動物じゃねえかな」
「了解っ。じゃあ長さすまたにしとくわ」
 俺は、指令本部からのアナウンスに気軽に応じ、壁に立てかけられている長い棒を手に取った。
 先端がU字型になっていて、その中に入り込んだ相手を捉えることができる。
 伝統的な捕獲用の武器だが、俺たちが使っている物は、電流が流れるように細工されている。
 頭部に装着したインカムを通じて、機械的に指令が入ってくる。それに従って駆け出し、五分も経つと、整えられた町並みが消え、草原地帯に入る。
「境界」であるという証拠だ。
「さて……」
 ゴーグルに備え付けられたサーモ機能をオンにして辺りを見回すと、右斜め向こう十メートルほどのところに、三つほどの熱源を発見した。
 二メートル弱の個体が一つ、八十センチほどの個体が二つ。
「グルルル……」
 こちらの気配を察してか、大きい方の個体が茂みから、唸りながら出てきた。
 予想通りツキノワグマだった。恐らく、この辺りの魚でも狙いにきた親子連れだろう。
 俺は油断なく長さすまたを中段に構え、柄のスイッチを押した。バチリと、電流が空気を切り裂く音が響く。
「グウウ……」
 それだけでクマは、かなりおじ気づいたようだった。体重を後ろに傾け、ジリ、と間合いを詰めてくる。
 本当なら逃げ出したいが、子供たちもいる手前、自分から退くわけにはいかない、そんな感じだろう。
 だから俺は、きっかけを作ってやることにした。
 さすまたの先を地面に向け、棒高跳びの棒を差し込むような要領で、先端を地面にねじ込む。
 さっきよりも太い音が、静かな空間に響き渡る。
「ガウウウウッ!」
 クマたちは本能的な危険を察したのか、声を張り上げて後方に駆け去っていった。
 一目散に逃げていくところからして、彼らがこのエリアに入ってくることは今後ないだろう。
「いい捌きっぷりでしたね、辰巳主任」
 やれやれと軽く息を吐いたところで、インカムから通信が入ってきた。
 俺が所属する、「リアルバトルゲーミングカンパニー(RGC)」の新人、国崎 雄一だ。
 反射神経的には優れたところはないが、根気強い性格なので、将来的は有望と見られている。
 気さくで、先輩への配慮もしっかりできるヤツだ。
「まあな。いくら攻撃を食らっても平気だって言っても、親子離れ離れになったら後味悪いしな。無傷で解放っつっても、期間が開いちゃうと野生に戻れなくなりかねんし」
「そうっすね。いくら決まりに違反してないって言っても後味悪いのはね」
「何にせよ、ベストな結果で良かったよ。すぐ戻る。ブース、空けといてくれよ」
 キリのいいところで会話を打ち切り、俺はさすまたを担ぎ直した。

 

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