幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

8月のエンドロール 7

   

かつてマリに何があり、今に至るのか。
マリの過去、そして現在。
子どもを取り巻く大人たちの状況とは――。
『姫子No.2』配信

 

姫子No.2

 十四歳のクリスマスだった。
 マリが好きでもない小太りの中年男に初めてを捧げたのは。
 夕方五時。
 蹴られてじくじく痛むお腹を抱えながら、マリは背伸びしたファッションで待ち合わせ場所にいた。
 周りには幸せそうなカップルばかりで、クリスマス一色の街は華やいでいる。数名、客を取る商売女がいて、ちらとお互いを見て、仕方がないよね、これが運命ってやつだもんねと一瞬の間に慰め合った。しかし、マリのことを慰める女はいなかった。誰もこれから十四歳のマリが客を取るとは、考えていないのだ。
 マリはたった一人で戦っていた。そして、その戦いは姫子という巨大な敵の前では負け戦だった。
 早起きして塗ったベビーピンクとホワイトの二層のマニキュアが、少しはみ出している。どうかそこを突っ込まれないようにと、きゅっと手を握った。握り拳が恐怖で震えた。
 客と寝ることなんて、ぜんぜんへーき。マリは平気。マリは壊れない。マリは死なない。
 ブーツに足を踏み入れるとき、自分を勇気づけるためにずっと歌っていた歌を、マリは頭の中で繰り返した。爪先で、テンポを刻む。
 大丈夫。平気。怖くない。すぐ終わる。平気。
 そして、昔、小遣いで買ったコンパクトで、ファンデーションが取れてないか、つけ睫毛が変じゃないか、腫れた頬が見えないかと丹念に点検した。そして勇気の象徴、赤い星がみっつ連なったヘアピンが、カールさせた髪にちゃんととまっているかを見た。
 ふんわりしたピンクのコートの裾をいじくる。
 姫子と一緒に住む父・勇次はマリが連絡しても全然出てくれなかった。きっとお酒を飲んでいるんだろう。
 お父さんはもうだめ。自分でなんとかしなきゃ駄目なんだ。誰もマリを助けてくれないんだから。
 マリは客を待つ間、昨晩のことを思い出していた。
 ミニスカサンタという露出の高い格好で、客引きを終え、バックヤードに戻ってきたときだった。
「じゃ、マリ。あなた、あそこにいるお客さんと明日デートね。ちゃんと〝最後〟までやってくるのよ」

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


コメントを残す

おすすめ作品