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SF・ファンタジー・ホラー

にゃんと素敵な東雲市役所猫支店 岐路1 原風景

   

みづきが筆を折り、フクが帰ってこなくなって二ヶ月。十年ぶりに東雲市で再会したミヤビ マサトとみづきは語り合う。
なぜ、みづきは八年もの長い間、書き続けられたのか? その本当の理由とこれからのことが始まる。
『岐路1 原風景』

 

 
 結末を書き直した『コトヒラ』最終回を林に送信してから、みづきは一文字も書けなくなった。何をどうやっても、ぴったりとはまる物がない。しばらく考えていたが、みづきは作家業を休止することにした。
 辞めると決心したとき、想像以上の空虚感と虚脱感が襲ってきた。
「私、働く。小説はもう書かない」
 食卓でそう宣言すると、父も母も揃って目を丸くした。それでいいのか? と言われたが、みづきがはっきり頷くと二人とも何も言わなかった。
 そして、すぐさま派遣登録をして、派遣社員として働き始めた。
 十一月に入りたての頃のことだ。
 以来、みづきは一切、パソコンに触れていない。ニフォンに電源も入れず、二番世界にも行ってない。苔色の本は本棚にしまいっぱなしだ。フクもずっと帰ってきていない。もう帰ってこないだろうと溺愛していた母は嘆いていた。
 みづきは、それらすべてに背を向け、別の道を選んだ。
 そして瞬く間に二ヶ月が過ぎ、みづきは三十歳になろうとしていた。

「じゃあ、お疲れ様でした」
 タイムカードを切ると、屋外に出る。凍えるような寒さが押し寄せ、みづきは着ていたコートの襟元を抱き合わせた。新年を超えた季節は、まだまだ寒い。夕方五時をすぎたばかりだというのに、もう真っ暗だった。
 駐輪場に向かい、自転車に乗ると家路についた。
 高校時代から使っている愛車は、当時高値を出して買ったからか未だに現役だ。
 冷たい風を切りながら、唐突に、今日は本屋へ行こうと思い立った。
 作家時代から比べると潤沢になった財布を持ち、通勤経路から一本それた大型のショッピングモールに自転車を進める。家からも近いこのショッピングモールには、大型書店が併設されている。自転車を置いて、店内に入ってすぐ、むっと紙の匂いが立ちこめていた。暇つぶしでしょっちゅう来ているのに、今日はやけに懐かしい。胸一杯の気持ちが溢れそうだった。
 文芸小説コーナーの新作ブースを巡る。と、平台にあるミヤビ マサトの名前が飛び込んできた。
「お、ミヤビ、新作か」
 言葉にすると、ちくりと胸が痛んだ。
 どうして、私はこうなれなかったんだろう。なにが彼と違ったんだろう。才能だろうか。運だろうか。それともフクちゃんの言う、十全な努力だろうか。そもそも、どうして私は八年もの間、書き続けていたんだろう。
 いかんいかん。
 辞めて二ヶ月経った今でも寄せてくる思いを打ち消した。
 私はもう、辞めたんだし。もう、終わってるんだから。

 

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