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ラブストーリー

Love cannot be compelled 5

   

信長の部屋で目を覚ました蘭は、ようやく安堵の息を吐く。
仕事に信長が出かけると、好奇心に駆られて部屋の中を歩き回った。その時、リビングで写真立てを見つけそれを手に取った。
それは、信長の父が記念にと撮った、清野家の家族写真だった…。

 

 微かな物音に目を覚まされて、ゆっくりと閉じていた目を開けた蘭は、見慣れない天井に眉を寄せた。
(どこ……? あぁ、そうか……)
 昨夜の出来事を思い出して、顔を顰めながら腕で目を覆った。
「起きたのか?」
 優しい声が側で聞こえて、蘭は腕を外した。そして視線を動かすと、微笑んだ信長がベッドに腰を下ろした。
「……信長」
「今日も一日ゆっくり休め。まだ完全に熱は下がっていないからな」
 そう言って額に貼られていた冷却シートを剥がされて、信長の大きな手が当てられると、蘭は安心したように息を吐いた。
「ここって…、信長の家?」
「あぁ、だから安心して休め。粥を作ってある。それを食べてから薬を飲んで寝ろ」
「……ありがとう」
 自然と顔が綻んだ蘭に、信長が顔を近づけた。
「俺に移せ。その方が、治りが早いだろう?」
 意地の悪い笑みを浮かべながら、信長は唇を重ねる。乾ききっている口内を潤すようにして、ゆっくりと舌を絡めてきた。それに応えながら、蘭は無意識の内に、信長の首に縋りつくようにして腕を回していた。
「蘭、名残惜しい気持ちはあるんだが……。そろそろ会社に行く」
「え……、あ、…あ、うん」
 抱きついていた事に気付いて、慌てて腕を退いた蘭は、耳まで真っ赤にして布団を頭から被った。
「とりあえず、部屋の中の物は勝手に使え。もし何か買い物でもあるのなら、俺が買ってくるから電話しろ。まずは熱を下げろ」
 ポンと布団の上から叩かれて、布団から顔を覗かせた蘭は、腰を上げた信長に小さく手を振った。それを見て微笑んだ信長に、蘭の鼓動が速まった。ドキドキと煩く音を立てる心臓をそっと押さえて、静かになった部屋をゆっくりと見回した。
「……すごい立派な部屋」
 自分が住んでいた部屋とは桁違いの広さ。しかも、ここは寝室だ。ベッドと本棚、そして壁に埋め込まれているクローゼットだけだった。
 ほんの少し好奇心にかられて、ゆっくりとベッドを抜け出した蘭は、寝室を出てみた。すぐ隣にリビングが広がっていて、高級そうなソファとテーブル、そして窓際にカウチが置いてあった。
「やっぱり社長なんだな……」
 金に糸目をつけてなさそうな部屋に、小さな溜息が零れた。ふとリビングボードの上に飾ってある写真立てに気付き、蘭は静かに近づいた。
(これって……)
 数個並べられていた写真立ての一つを手に取る。それは、紛れもなく自分で、一瞬驚いた。清野家の家族写真、何故これを信長が持っているのか疑問に思った。その時ハッとした蘭は、短く息を吐いてから写真立てを元に戻した。
(おじさんが、最後にって……、ウチの写真撮ってたっけ)
 御堂家が引っ越す日、記念に欲しいからと、写真を撮らせて欲しいと言ってきたのだ。蘭も、信長の父親の頼みだからと、快く承諾した。これが信長の頼みだったなら、あの当時の自分は嫌だと写らなかったかもしれない。
(もしかして……、信長が頼んだのかな……)
 そう思ってから、フッと顔が緩んだ。
 昨夜までゴチャゴチャしていた頭の中が、今はなんとなく整理されてきていた。信長が言った言葉も、少しずつ理解されてくる。
 何故、自分にあんな態度をしたのか、今自分をどう思っているのか。
(お粥作ったって言ってたっけ……)
 キッチンに向かいながら、蘭の目から一粒涙が零れた。

 

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