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SF・ファンタジー・ホラー

サクリファイス クロニクル編3

   

サクリファイスと呼ばれる、怪物を描いたゴシックファンタジー。
売れない作家に人探しの為、自らの物語を語るシャルル。
それは、遥か昔、15世紀までに遡った。
親友であるダミアンに励まされ、恋愛歌劇“月の影法師”初公演を迎える。

 

 ダミアンは、優しく笑う。
「気に入った?」
「僕には、勿体ないくらいだ」
 ふと、彼の表情が悲しげに揺れた。
「悲しくて繊細で、脆く、儚く、実に美しい。憂いのヴェールがそれに拍車をかけている。それがきっと君の美しさ。そして、このカップも同じだよ。父への祈りは届かなかったのだから。そう言えば、月の美しさも君の美しさとよく似ている気がするよ」
 ―― 月?
 月の美しさとは何か。
 暗闇に独り、冷たく白く揺れる。寂しくないかと問い掛けたら、きっと月はこう答えるだろう。
『星達が歌ってくれるから、寂しくなんてないんだよ』
 なら……
 今の僕に、星達の歌に変わるものは存在するのだろうか?
「さぁ、カップを出して」
 ダミアンが、ワインボトルのコルクを抜いて言った。僕がカップを差し出すと、彼は銀色のそれに血液よろしく真っ赤なワインを並々と注いだ。
 そして、新たに箱から取り出したもう一つの同じ銀のカップにも、ワインを同様に注いだ。
「明日の成功を祈って」
 無邪気に笑うダミアンの顔が、蝋燭の炎によって暗闇に浮かびあがる。
「うん、成功を祈って」
 唇に触れた銀のひんやりとした感覚も、鼻腔いっぱいに占めた葡萄の香しさも、喉を通る濃厚な甘みとずっしりとした渋みも、その笑顔には敵わない気がした。
 その晩はかなり遅くまで二人で語り合った。声を潜めるのが困難な程笑い合い、そして何よりも楽しかった。

*****

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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