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SF・ファンタジー・ホラー

にゃんと素敵な東雲市役所猫支店 岐路3 制御

   

みづきにベランダから送り出されたフク、一ヶ月半でミステリを仕上げるみづき。それぞれの戦いはやがて終わりを迎え、新たな日常が幕を開ける。だがそれは、二人の別れを予感させるものだった。
『岐路3 制御』

 

 
「落下地点確認。北神山、火口。補正、左に七度。保護シート急いで!」
 ヘルメットをかぶった御手洗ナルが、双眼鏡でみづきの落下を確認すると檄を飛ばした。
「分かってますっ、よ!」
 御手洗ナル、野崎ルーキーと芦葉ハヤトが互いの能力をぎりぎりまで絞り出して圧縮したオレンジ色の球体を、野球少年だったルーキーが北神支店屋上から全力投球した。目指すは約十キロほど上空。本来、みづきが出てくるはずだった北神支店入り口の遙か上だった。
「上手くいってくれよ……!」
 推進力が加わり、爆発的に加速する球体は大きく山なりになる。次第に巨大化して、シート状になると気を失ったみづきを空中で包み込んだ。そのままふわふわと浮き、宙の一点で停止する。しばらくナルが双眼鏡で凝視していたが、ルーキーが指先に手応えを感じ、ガッツポーズをした。
「よしっ! 保護成功!」
「早く引っ張ってきてくれ。あのままじゃ火口の熱で保たない」
 課長代理となったハヤトが指示すると、ルーキーが見えない糸をするすると引っ張った。ナルが大きく溜息をつく。ごうっと地面からあがってくる熱風が、髪を煽り、彼女の濁った瞳を露わにした。十階の、さらに上の屋上だというのに地面から火柱が上がってくる。ナルがぽつりと呟いた。
「もうめちゃくちゃになってるのね。あの通路は一番安全だったのに」
「みづきさんが言ってた制御方法があればなんとかなるかもしれない。希望は捨てないでおきましょう」 
 北神山は鳴動し、火山灰が降り注いでくる。土石流と溶岩でコンクリートが溶け出して眼下を流れてゆく。冬なのに暑い。火山灰が降り注ぐ様は、終末のようだった。
 十キロの道のりをルーキーに引かれ、戻ってきたオレンジ球体は、屋上に着陸するとふんわりと雪が溶けるように消える。球体は糸のように細かくなり、力の源であるそれぞれの肉体に戻っていった。
「みづきさん……みづきさん」
 包まれていたみづきは、胸にしっかと苔色の本を抱きしめ、気を失っていた。
 ハヤトが頬を叩くが一向に目覚めない。医療知識もある彼が脈を取り、呼吸を確認したが特に異常はなかった。
「一旦、医務室に運びましょう。この支店もそろそろ放棄しないとまずいでしょうね」
 ルーキーがみづきを抱き上げると、三人は揃って屋上を後にした。

 

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