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ラブストーリー

Love cannot be compelled 7

   

信長の会社に初めて足を踏み入れた蘭。
後ろをついて入っていけば、改めて信長の凄さが目に入った。それに気後れしながら社長室へと入った途端、秘書のエリカが信長に近づいた。
すぐに仕事に入ってしまった信長を見ている内に、蘭の気持ちが歪み始める。エリカに対する信長の言動が、二人の関係を物語っているようで…。

 

 翌日、信長に連れられて本社へと足を踏み入れた蘭は、酷く緊張した面持ちで信長の後ろを歩いていた。当然の事ながら、社長の姿が見えれば皆姿勢を正して一礼する。それを後ろで見ていると、改めて信長の凄さが見えて来た。
 エレベーターに乗り込み最上階へと向かい、ドアが開くとそこが既にオフィスだった。
「お早う御座います、社長。本日は……」
 手帳を開いて今日の予定を話し始めたのは、一瞬外人かと思うような顔立ちの美人だった。冷たい印象の彼女の顔に蘭が見入っていると、その視線を向けられた。
「社長、こちらの方は」
「今日から、俺の雑用に回ってもらう清野だ。こっちは秘書のエリカだ」
 ぶっきら棒にそう紹介されて、慌てて蘭は頭を下げた。
「この人の雑用は、本当に雑用だから、嫌がらずにやってあげてね」
 ニッコリと笑ったエリカの顔は、先程の印象とは随分違って見えた。
(キャリアウーマンって感じ……。でも、笑うと優しそう……。綺麗な声だな……)
「よろしく」
「え…、あ、はいっ! あのっ…、清野ですっ……。宜しくお願いいたします」
 一瞬呆けていた自分に気付いて、慌てて頭を下げると直ぐに踵を返された。
 なんの余韻も無しに目の前から消えてしまったエリカを目で追っていると、信長に近づいて傍に立った。
「あの方のスキルは? 雑用とは言っても、一日中コーヒーを淹れてもらうわけじゃないでしょ?」
「アイツの仕事は俺が決めるから気にするな。お前はお前の仕事をしてくれればいい」
 静かな信長の声が響く。穏やかな声に、何故か違和感を感じた。
 昨夜会った千穂に、そんな声は使わなかった。どこか威圧感のある堂々とした言い方。そして、声。
(彼女には、そんな風に話すんだ……)
 秘書なのだから、一日の殆どを一緒に過ごしている所為なのか、信頼関係がしっかりと出来ているように感じた。ただ、自分の居場所を掴めなくて、蘭は後悔した。
 信長の言うとおり、一緒の会社にしなければ良かったと。
(仕事に来てるんだから……。プライベートを持ち込むべきじゃない事くらい、分かってるのに……)
 二人が並んで立っていると、まるで他人を見ているようだ。信長さえも、自分の恋人とは思えなかった。
 いつまで経っても二人の会話が終わらず、どれほどの時間こうして立っていなければならないのかと、蘭は苛立ちに勝てず、そのまま静かにエレベーターに向かった。
「そうだな、それなら……、…? 蘭、どこへ行く」
 下へ行くボタンを押した時信長に声を掛けられて、蘭は無理矢理口角を上げて、買いたいものを思い出したと嘘を吐いた。
「買いたい物って、帰りに買えばいいだろ」
「いや、忙しいみたいだから、今行って来る」
 笑って言ったつもりだったが、皮肉めいた言い方になった。
「おい、蘭」
「……」
 近づいて来た信長が、蘭に触れる前にエレベーターのドアが開いて、直ぐに乗り込んだ蘭は扉を閉めるボタンを押した。
「蘭っ、勝手に……」
「今、アンタの顔見たくない」
 低く唸るように呟いた蘭は、扉を押さえている手を思い切り払って扉を閉めた。そして、一階へと降りて、直ぐにビルを出た。
(仕事だけって感じには取れなかった……。なによ…、アタシなんかがいなくたって、あのエリカって人なら何でもやってくれてそうじゃない……。わざわざアタシがやる仕事なんて、本当はなかったんだ)
 苛立ちが治まらず、蘭はそこから離れる為に歩き出した。

 

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