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歴史・時代

薔薇と毒薬 10

   

『君の歌が好きだよ』
 そんなことを、一度くらいグレイに言われてみたい。
 彼が言うように、朝から晩までマリエットの歌を聞かされているはずなのに、グレイはその歌を聞いて、何かを思うことはないのだろうか。

 

「調子がいいな」
 歌い終えたマリエットが舞台から降り、グレイの待つテーブルに戻ると、珍しくそのようなことを言われた。
「そうかしら」
 昼間約束したとおり、マリエットが歌っている間、ずっとノイッシュは、一番舞台に近いテーブルで、歌を聴いてくれていた。
 そのテーブルに彼とずっと一緒にいたのは、セレスタン公爵家のまだ年若い当主。マリエットは、舞踏会のざわめきの中に紛れる程度の小声で、グレイに訊ねた。
「セレスタン公爵とノイッシュ王子は、親交が深いのかしら」
 はじめてマリエットがここで歌ったときも、王子はセレスタン公爵と同じテーブルにいた。
「そのようだ。正妃イングリットの権力を怖れ、第一王子ノイッシュを遠巻きにしている貴族が多い中、セレスタン公爵家だけは、ずっとノイッシュの後見についている。現公爵エーベル・セレスタンが爵位を継いだのはほんの半年前とのことだが、ノイッシュとは幼なじみと言っていい間柄にある」
「ふうん」
 友達いるんじゃない、とマリエットは思った。
 マリエットが下りた舞台では、そのセレスタン公爵の妹、ファナが歌っている。控えめな印象の、おとなしそうなお姫様。この国で一番と謳われる歌い手なのだと聞いている。
「……悪くないわね」
 その歌を聞きながら、マリエットは言った。
 甘く初々しい恋の気持ちを歌い上げるファナの、視線と、その歌とで、マリエットは彼女の思い人が誰であるのかがわかってしまった。

 

-歴史・時代


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