幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

にゃんと素敵な東雲市役所猫支店 さよなら、フクちゃん

   

フクがいなくなって一年が経とうとしていた。みづきは新たな生活をはじめ、ミヤビも東雲市に戻ってくる。そして書き込まれる《生きてるわよ》のコメント。フクとのさよならと、互いを愛する二人のこれから。
にゃんと素敵な東雲市役所猫支店 最終話『さよなら、フクちゃん』

 

 
 みづきの好文社デビューと新作『まもよけ』の出版、ミヤビとの交際が決まってしばらく経った頃だった。ミヤビが本当に東雲市の北神町に中古住宅を買って引っ越してきた。それに伴い、細々ながら貯蓄をしていたみづきも北神町にアパートを借り、一人暮らしを始めた。
 北神町は東雲町よりもさらに田舎で、ショッピングモールもなければ、コンビニの数も少ない。一応住宅街に居を構えた二人だったが、近所は田んぼばかりという地域だった。お互いの家は歩いて十分程度の、本当に近所だった。
 三十歳同士が付き合うなら結婚を前提に、ということになるのだろうが、変人作家二人はほとんど頓着しなかった。時期が来れば、そうなるだろうとお互い考えていたし、慌てるほど時間がないわけでもなかった。
 むしろ、今はお互いの家を行き来するのが気晴らしと唯一の楽しみらしく、しょっちゅう行き来していた。
 この日も、みづきは真新しい「雅」の表札がある家の鍵を開けて勝手に入った。
 手には先ほど作ったかぼちゃの煮物がある。そろそろ夕飯時で、二人はどちらからともなく料理の持ち合いをしていた。
 みづきもミヤビも、一人だとろくに食事をしなくなることが分かったので、突然死防止のためこうして集まって夕飯だけは一緒に食べるようにしていた。
 建て売り住宅独特の妙にぺったりした玄関を開けると、煙草のにおいが立ちこめている。むっと顔を顰めたみづきは即リビングに突進した。窓を開け、換気扇を回す。健康とお財布のためにも煙草を控えるようにと散々言っているのだが、ミヤビの喫煙量は一向に減らない。
 階段を覗き込み、上にいるはずのミヤビを呼ぶ。
「ミヤビー。ただいまー。ご飯食べよー。ご飯炊いたー?」
 あーとかうーとか妙な返事があって、静かだった二階でばたばたと音がする。
 今日も無事、生きている。
 みづきはそのことにほっと胸を撫で下ろした。だが、それを確認するたびに、ちくりと胸が痛む。
 結局、フクはどこを探してもいなかった。
 東京を探しても、帰ってきて東雲市を探しても、彼女はとうとう見つからなかった。いつも行く公園にいた芦葉ハヤトも見つからない。
 ニフォンもなくなり、連絡を取る手段もない。異種族カードはいつの間にか消えていた。みづきは、かつてあんなにも行き来した世界を失った。失ったと自覚して、それがいかに大事であったかに気づいた。
 だからせめてと、香織に作ってもらったホームページは、更新し続けている。もっとも多忙になってきた仕事の合間なので、更新速度は遅めだったが。

 

-SF・ファンタジー・ホラー