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歴史・時代

ハヤブサ王 第3章 〜皇女たちの憂鬱(1)

   

 後継者争いから十年。その長い歳月は、ワケノミコを逞しい男に成長させ、ヤタノヒメミコ・メトリノヒメミコ姉妹を美しい女に成長させた。
 無垢な子どもから大人への階段を昇り始めた三人は、微妙な関係に…。
 権力と愛の狭間に揺れる男と女の古代絵巻は、新たなる章へ!

 


 松林の奥から、木を打ち付けるような乾いた音に混じって、男たちの勇ましい声が聞こえてくる。
 松林を抜けて行くと、粗末な大屋根が見えてくる。大屋根の前は広間になっていて、二人の男が棒切れを打ち合わせる姿が見える。
 一人は、耳の上の辺りに白いものが目立ち始めた無骨な男である。もう一人は、眉毛のきりりと上がった端整な顔立ちの男である。男というには若すぎるかもしれない。頬には幾分あどけなさが残る。それが逆に、女心をそそるようだ。
 二人は、鋭い声を発し、木剣を振り回しながらお互いの懐に飛び込んでいく。二人がぶつかると、耳を劈くような音が響き渡る。数度、互いに木剣をぶつけ、退く。それを何度も繰り返す。
 少年の首筋に薄っすらと汗が滲む。
 縁側では、少女が二人を眺めている。太股の上に肘を付いて、手の上に顎を載せた状態で、二人のことをにこにこと見守っている。
 松籟が耳に心地良い。
 屋敷の奥から、見目麗しい女性が幾分年を取った女性を伴って出てきた。二人の女性の手には、高坏が。高坏には、綺麗に切り分けられた瓜が盛られていた。
「皆さん、瓜があるわよ」
 女性が澄み切った声を上げると、少女が見上げて目を輝かせた。
「本当?」
 少女は勇んで立ち上がり、瓜を手にしてしゃぶりついた。しゃくりとした歯ざわりと舌に絡み付くねっとりとした果肉が美味しい。瓜の汁がしっとりと咽喉を潤してくれる。
「こら、お行儀悪いでしょ、メトリ」
 怒られてもなんのその。メトリノヒメミコは、ぺろりと小さな舌を出して再び瓜にしゃぶりついた。
「ワケとオオタテもどうですか? 剣術のお稽古もそのぐらいにして」
 女性は、木剣を振り回していた二人の男に呼びかけた。
「おっ、瓜ですか」
 オオタテが一瞬余所見をしたときだった。ワケノミコの鋭い一撃が彼の木剣を飛ばした。あっという間もなく、咽喉仏に木先を突きつけられた。
「オオタテ、稽古中に余所見をするなと言ったのは、お前のほうだぞ」
「いやはや、これは参りました」
「分かればよろしい」
 二人はからからと笑った。
 その光景を頼もしそうにヤタノヒメミコは見守った。

 

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