幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

8月のエンドロール 10

   

春日井 家光がなんの情報も得られないとき、マリと古雅を見た息子のタイゾウは独自に調査をはじめていた。それは己の価値を刻む闘いの始まりだった。
マリを得た古雅の過去にタイゾウが迫る。
『傷を刻む転換点』配信

 

 
傷を刻む転換点

 マリちゃんを助けて、マリちゃんを助けて、マリちゃんを――
「うっせ」
 小さく呟いたタイゾウは、ネットカフェの一室で先ほど見た男――あの品の良い〝おじいさま〟風の男である――を検索していた。すぐさまヒットする。テレビにこそ出ないが、かなりの有名人であり実力者だ。
(あった……古雅 劉生。六十八歳。比野県保守党・みなひと党議員。比野県若者活用研究会所属、比野県女性活用委員会、比野県障害者雇用推進委員会……ずいぶん所属してる会が多いな)
 カチカチと安っぽいマウスをクリックしていたが、ノックがあったのでブラウザを最小化した。覇気のない大学生の店員が、お盆を抱えている。
「ご注文の大盛りカツカレーになります」
「どうも」
 受け取って扉の鍵を閉めると、大盛りのカレーを口に運んだ。ネットカフェは有名ファミレスチェーン店の系列だったが、野菜が少なくてさして美味くない。それでも、昼飯を食い損ねていたタイゾウにはありがたかった。
 スプーンをくわえて、「古雅劉生 家族」とタイプ。ずらりと出てきたのは、誹謗中傷の類でほとんど役に立たなかった。リクライニングチェアを、ぎっと揺らして頭を掻く。テーブルに頬杖をついて、ううむと呻いた。
(露出の多い国会議員でもないのに、ここまで叩かれてるっつーことは、相当なやり手ってことだよな)
 ドリンクバーのメロンソーダを飲みながら、カツに手を出した。脂っこいカツを半分かみ切る。少々油臭いのに辟易したが、それよりも腹に収める方が優先だった。
 もぐもぐと咀嚼しながら、カレーとカツを交互に食べる。
 キーボードをタイプして〝拾える程度〟の情報を探っていると、隣の個室から荒い息づかいと、女の抑えた喘ぎが聞こえてくる。タイゾウの眉根が寄った。ここのネットカフェは個室だが、天井部分が空いていて周囲の音が聞こえる。どうせ金のない高校生かプレイを楽しみたい大学生だろう。壁を蹴ると、ぴたりと止んだ。
「うるせえんだよ」
 ドスの効いた声で囁くと醒めたのだろう、個室を出て行く。
 盛大に溜息をついたタイゾウも、はたと我に返った。
(俺、なんでこんなことしてんだ?)
 画面に表示されている古雅 劉生の年のわりに溌剌とした笑顔をじっと見た。ディスプレイにかすかに自分の顔が映り込む。そこらへんにいる十八歳の顔を見据え、問いかけた。
(なんでこんなことしてんだ? マリを助けたいのか?)
 脳裏にわんわんと響く、「マリちゃんを助けて」に顔を顰めながらも、タイゾウはじっと考えた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


コメントを残す

おすすめ作品

Egg〜スパイの恋人〜episode5

見習い探偵と呼ばないで! Season12-7

自称天才数学者の推理記録 記録1 第1話

見習い探偵と呼ばないで! Season16-8

Egg~ノクターン~episode10