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歴史・時代

薔薇と毒薬 13

   

 そう言う連絡員の女を、グレイはじろりと睨みつけた。
「やだわ。怖い」
 そういいながらくすくすと笑い、女は踵を返した。
「情は判断を狂わせる。リアンドールは所詮使い捨ての駒よ。それを忘れないで。使えない駒なんていらないのよ」
 連絡員に背を向けたまま、その気配が遠ざかるのだけをグレイは感じていた。薬の入った小瓶を手に取り、ポケットに突っ込む。

 

 その後はいろいろと大変だった。王宮内は大騒ぎになり、舞踏会は中止され、ノイッシュは典医の元へ連れて行かれた。そしてマリエットは警備師長から丁重な謝罪を受け、王宮の馬車で迎賓館まで送り届けられた。
 ノイッシュはどうしているだろうと考えながら、マリエットはソファに身を預け、ぼんやりと窓の外の景色を見ていた。もう完全に日が暮れていて、窓の外は暗く、風にゆれる木の影を枠の中に治めた窓硝子は鏡のようにマリエットの顔を映し出していた。
 不意に、こほ、と咳が出て、マリエットは手で口もとをおさえた。
 喉の奥で血の味がする。ノイッシュの身柄をおさえるという、ギルドから与えられた任務を果たせておらず、薬をもらえていない所為で、喉が炎症を起こしかけている。
 マリエットはちいさくためいきをついた。
 自分が掘った通路をマリエットに見せようとしていたノイッシュの、無邪気な少年のような顔を思い出す。自分が狙われているとわかっていながら、ためらいもせずマリエットを護ってくれた。何故そんなことをするのか。彼が知らないだけで、自分もまたノイッシュに危害を加えることを目的として、ここにいるだけなのに。
 ソファの上でマリエットは膝を抱えて座り目を閉じた。喉を通り抜ける息が熱い。それだけではなく身体も怠かった。これは熱病の後遺症の症状ではない。
 そのとき、部屋にグレイが入ってきた。マリエットが目を開けると、グレイはまっすぐ、ソファにぐったりと身を預けているマリエットのそばへやってきて、額に手を当てた。
「……発熱してるな」
 グレイが有無を言わせぬ口調で、マリエットに言った。
「傷を見せろ」
「……え」

 

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