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歴史・時代

薔薇と毒薬 15

   

失敗すれば、ひとりどこかで孤独のうちに野垂れ死ぬことになるのだろう。そう考えてマリエットは、ぎゅっと目を閉じる。
愛されなくていいから、道具としてそばに置かれているだけでいいから、ひとりにされたくない。

 

 それから二、三日、マリエットはベッドから起き上がることができなかった。
 毒薬の作用か、それとも押し込めていた記憶が呼び醒まされたそのショックの所為かはわからなかったが、高熱が続き、意識もはっきりとしない。そんな中でマリエットは幾度か目を醒ましかけたが、熱に浮かされ思考はさだまらぬまま、やがて泥のような暗い夢の中へと引きずり込まれてゆく。
 そんなことを繰り返したあと、長く続いた夢の末に、マリエットはぼんやりと目を開けた。窓には白いカーテンが引かれ、外の景色は見えない。けれどその仄白い明るさに、マリエットは安堵を憶えた。胸元の傷口が熱を持ちずきずき痛む。ひどく喉が渇いていた。
「お水……」
 欲しい、と言おうとして、唐突に意識が現実に引き戻された。そして思い出す。暗闇の中グレイに衣装箪笥に押し込められたことを。
「あ……」
 マリエットは思わず、ベッドの中で身をすくめた。
 もう、本当に今度こそ、グレイに捨てられるかも知れない。彼の言う通り、四年もかけてグレイは自分をリアンドールに育てたのに、何の役にも立っておらず、それどころか足を引っ張るばかり。
 グレイに見捨てられるのが怖い。ギルドから薬をもらえなくなったら生きられない。けれど今は、ノイッシュが自分の目的を知ったらどんな顔をするだろうと考えるだけで胸が苦しい。
 そのとき、ふとマリエットは気づいた。薬を飲んでいなかった所為で、熱を持って腫れていた喉が、元に戻っている。思わず喉元に手を当てた。
「……ん」
 小さく声を出してみる。やはり気のせいではない。どうして。

 

-歴史・時代


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