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狙撃ゲームの行方

   

安田 久信は、ハンターとして害獣を撃って生計を立てていた。独自の理論によって殺傷することなく獲物を仕留める腕前は好評だった。だが、近年の無人狙撃機の登場などにより、めっきりと仕事は減り、多額の借金を抱えていた。

そんなある日、安田は、あるゲームを持ち掛けられる。対戦相手よりも先に三キロ離れた標的を打ち抜くゲームに勝ったのなら借金は帳消し、しかしもし負けたら狩猟界そのものの存続が危機に瀕するという条件では参加するしか他に道はなかったのだが、相手の原始的な罠にひっかかってしまう。

ハメられたことにショックを受ける安田だったが、話を聞いた安田の友人、山野 純一は何故か「勝てる」と言い切った……

 

 安田 久信が引き金から手を離し銃を下ろすと、周囲からため息交じりの拍手が巻き起こった。
 その控えめな音は、場に居合わせた仲間たちの感嘆の念を強調しているようにも聞こえる。
 見ている人間の中に「素人」が一人もいないからこそ、場の空気はよりいっそう感動を含んだものになっている。
「これが、『眠らせ』の要諦だ。血流の多い場所を選び、急所は避けるの鉄則を守り、さらに、種に即したポイントに撃つことができれば、少ない麻酔でも十分に効かせることができる」
 安田は、野外に設置された椅子に腰かけている生徒たちに話しかけながら、改めて標的のイノシシを見やった。
 地面に横倒れになり、ぴくりとも動く気配を見せない。
 どうやら「術」はうまくいったようだ。本音を言えば、四十メートル先の標的に使えるかどうかは確信が持てなかったが、成功した以上、不安を表面に出すこともない。
 生徒たちに自信を与えるのも、講師の仕事のうちだ。
「当然、狙う標的によって麻酔薬の量を微調整する必要はあるが、要はセオリーと知識が鍵となる。何か質問はあるかな」
 安田の問いかけに、何人かが素早く手を挙げた。学校の授業のような緩い空気は、この空間にはまったくない。
 誰もが、自分の生活につながる技術を盗んでやろうという気迫に満ちている。
「針麻酔の要領と同じってことですかね、先生」
 六十代半ばぐらいの男が、野太い声で聞いてきた。安田よりもずっと年上に見えるが、丁寧な物腰を崩さす、だからこそ真剣味が伝わってくる。
 安田もまた、教師としての威厳を保ったまま続けた。
「そうだな。つまり、麻酔の力だけではなく針の作用そのものをも利用して、標的を眠らせるわけだ。私たちの活動が市街地で認められているのはそのためでもある。万一、人にぶつかっても重篤な事故の可能性が低いというわけでな」
 安田は、傍らに立てかけた銃をぽん、と、手で叩いた。見た目は一般的な狩猟用ライフルと同じだが、実弾を発射することはできず、撃ち出すのはもっぱら麻酔用の矢が先端についた弾である。
 獲物を仕留めるのではなく、眠らせ、捕らえることだけに特化した装備だと言える。
 そしてそれは、安田が主宰する狩猟チームの体質をそのまま示してもいる。
 安田は、狩猟免許は持っているものの、動物を殺傷しないことをモットーにしている。
 無闇に命を奪わないことを徹底したかったという個人的感情と、国土に比して人が多い日本では、なかなか実弾を撃つのが難しく、害獣排除をしやすくする必要があったからという実務的な理由のためだ。
 実際、多くのハンターたちも、狩猟銃を麻酔銃に持ち替え、熱心に仕事をしてきたが、安田のグループが突出して成果を上げているのは、独特の理論を持っていたからである。
 それ故、同業者からは異端視されたこともあったが、今となっては、オリジナリティが人を集める要素ともなっている。
 また、殺生を嫌う層からの支持を得ることにもつながっており、業界全体のイメージ良化にも貢献しているという声もある。
「それでは、基礎射撃の確認に移ろう。理論を実現するには、一にも二にも狙いの正確さが重要だからな」
 安田が声をかけると、生徒たちは待ち構えていたかのように銃を取り、射場へと散っていった。

 

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