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サクリファイス クロニクル編7

   

ペストで命を落とした筈のシャルルは、綺麗なベッドの上で目を覚ました。
ベッドの側に居たのは、幼馴染のソバッカスではなく、クレメンティーナという女性であった。
そこへ、アーロンという男性も現れる。
彼らは、自らを神だと名乗り、またシャルルにも神の力を与えたと語った。
状況がつかめないままアーロン達に連れられ、神の力を目にするシャルル。
だが、そこで見たものは、神ではなく悪魔にも勝るおぞましい行為であった。

サクリファイスと呼ばれる怪物を描いたゴシックダークファンタジー!

 

 目が覚めた。
 今度は、驚く程、しっかりした意識だった。
 起き上がった僕の目の前に居た赤毛の女性はソバッカスではなく、知らない人だった。彼女は微笑みながら僕を値踏みするよう見つめて言った。
「本当に綺麗ね。貴方、気分はどう? もう十日も眠っていたのよ」
「悪くはないです。……あのぅ、貴女は? 僕はどうなったんですか?」
 知らない場所で綺麗なベッドに寝かされ、知らない女性に看病されていた。気付けば、服も知らない綺麗なモノに替えられていた。寝起きの僕には、そこまでしか理解が出来なかった。思い出そうにも、記憶にモヤがかかり、混乱したまま頭の中が整理出来ずにいた。
「私は、クレメンティーナ・クリスティ。貴方、名前は? 女だと思って助けたのだけど、着替えさせてたとき男だったからビックリしたわ。アーロンは構わないって言ったけどね。まあ、もう助けちゃったし、どうしようもないもの。あぁ! 貴方ね、ペストでのたうち回ってたのよ。貴方が綺麗だったから、私が気に入って助けたの。女だったら良かったのに」
 クレメンティーナは、捲し立てるように言った。
「僕は、シャルル・アンリ・バシュロ・ナルカン。……ペスト……」
 記憶の奥から、苦しさに耐えながら自分の吐いた血で床に絵を描いていたのを思い出した。あの時、あの世から迎えに来てくれたと思ったソバッカスは、ソバッカスではなくクレメンティーナだったのだと気付いた。
「助けてくれて、ありがとうございます」
 クレメンティーナは、満足そうに頷いた。同時に、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
「ただいま、クレメンティーナ! ああ! 君のお気に入り君は、目が覚めたみたいだね。
初めまして、お気に入り君。私は、アーロン・カノーヴィルという名だよ。気楽にアーロンって呼んでおくれ。気分は悪くないだろ? 神になった気分はどうだい? その前に君の名も教えておくれよ」
 アーロンは真っ黒な髪と真っ黒な眼を持つ、整った顔立ちの男性であった。そして、クレメンティーナ同様に言葉を捲し立てたのだった。
「シャルル・アンリ・バシュロ・ナルカン。助けてくれて、ありがとうございます」
 アーロンも、満足そうに頷いた。
「では、シャルル、どうだい? 神の身体は。まだ、私達以外試したことがないんだ。だから君は、一号って訳さ! 本当に幸運な男だ。どんな気分だい?」
 子供の様に僕に言い寄るアーロンを、クレメンティーナが止めた。
「アーロン。シャルルは、まだ知らないわよ。今、起きたばかりなんだから」
 アーロンは残念そうに呟いた。
「なんだ、まだ話していないのか」
 アーロンは、少し離れた場所に置いてあった椅子を持ってきて、クレメンティーナの椅子の隣にどかっと腰掛けた。
 思考の付いていかない僕を置いて、二人はどんどん先走るように話を進めてしまう。
「では、私から話そう!」
 アーロンは、楽しそうに僕の前に身体を乗り出した。
「錬金術、というのを知っているかい?」
 僕は首を左右に振った。
「そうかい。錬金術とはね、不完全、未成熟なモノを完全なモノに変える術の事なんだ。私とクレメンティーナは、長らく錬金術の研究を繰り返し、ついに真の目的を手に入れることに成功したんだ。病気や老い、死からも解放され、我々は永遠に完全なる肉体と魂を手に入れたんだ」
 言うとアーロンは立ち上がり、脇の机の上に置いてあったナイフを掴むと、僕の首元を切りつけた。
 僕の視界に真っ赤な鮮血迸り、シーツとシャツが真っ赤に染まった。喉に焼けるような鋭い痛みが走ったが、それはほんの一瞬の出来事にして治まった。アーロンの切りつけた首元を触るが、傷口は見つからなかった。
「突然、悪かったね。でも、そういうことさ」
 アーロンはナイフを後ろへ投げ捨てると、ケラケラと笑いながら再び椅子に腰掛けた。
「ただ、困った事に敵も増えてしまった。まあ、神の力を手にしたのだから、仕方のないことさ。君も十分気をつけたまえ」
 楽しそうに話すアーロンの横から、今度はクレメンティーナが口を出した。
「アーロン、楽しそうね。じゃあ、私が大切な事を話すわ。完璧な私達だけど、一つだけ気を付けなければならないことがあるの。聖なる泉、と呼ばれるものには如何なるモノでも触れてはならない」
 クレメンティーナの言葉に、少しだけアーロンが不機嫌になった。
「クレメンティーナ、これから素晴らしい力の数々を話そうと思っていたのに、後ろ向きな事を言うんじゃない。シャルルが、がっかりしたらどうするんだ」
 話も状況もついていけずに困惑している僕を見て、アーロンが立ち上がった。
「ほら、クレメンティーナのせいでシャルルが消沈してしまったじゃないか! シャルル、確かに私達は聖なる泉に触れてはならない。だが、その程度だ。それ以上に素晴らしい力が沢山あるんだよ。そんなに気を落とさずに……。そうだ! 外に行こう。君に素晴らしい力を見せてあげるよ」
 クレメンティーナが、溜め息を吐きながら僕に新しいシャツを渡した。
「早く着替えて。アーロンは、言い出したら聞かないし、のろまは嫌いなのよ」
 僕は急いでシャツを着替え、アーロン達の後を追った。

 

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