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夢で逢いましょう<1>幼なじみ

   

 筒井つの、井筒にかけしまろがたけ、過ぎにけらしな、妹見ざるまに。(伊勢物語)

 

 足立秀一と星野智美は幼なじみである。
 秀一は智美のことを「ともたん」と呼んでいた。
 智美は秀一のことを「おにいちゃん」と呼んでいた。
 足立秀一の方が二歳年上なので、おにいちゃん、というわけである。
 星野智美が、その夢を最初に見たのは幼稚園の時であった。
「おにいちゃん」
「何?」
「あのね、わたし……、夢を見たの」
「何の夢?」
「言わない」
 夢を見たことは言いたい、だが、夢の内容は言いたくなかったのだ。
 それから折にふれ、星野智美はその夢を見るようになった。

 星野智美が高校生になったとき、足立秀一は、気軽に話しかけられなくなった。
 他の女の子となら普通に話せるのに。
 それでも、なんとか話をしたい。
「ともたん」
「なあに、おにいちゃん」
「いつか、夢を見たって言っていたろう。あれ、何だ?」
「言わないもん」
 笑い顔がまぶしかった。

 ごく自然に、二人は結婚した。
 しばらくは、「ともたん」、「おにいちゃん」であったが、子供が生まれると、「パパ」、「ママ」となった。

 幾多の喜びや悲しみと向き合うことになった。
 だが、いつも二人であり、それは、幸せな時であった。

 やがて、「おじいさん」、「おばあさん」と呼び合うようになった。
 肩から大きな荷物を下ろした気分であった。

 そして、避けられない時が来た。

 秀一は、力がなくなりつつある智美の手を握りながら、耳元で言った。
「ともたん」
 智美の唇が微かに動く。
「なあに、おにいちゃん」と答えたのであろう。
「夢、あれ、何だったんだ」
 また、唇が弱々しく動いた。
 秀一は、その唇に耳を近寄せた。
 そして、首を縦にふった。
「そう、そうだよな」
 智美の、動かなくなった顔は、笑っていた。
 秀一は、いつまでもその顔を見続けていた。

 

≪おわり≫

 

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