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SF・ファンタジー・ホラー

月うさぎ/第1夜

   

第1夜

“月うさぎ、指輪をもらう”

 細い細い三日月の夜、新米の月うさぎはひとりの女性と出逢います。失恋に落ち込む彼女は、月うさぎに綺麗な指輪をくれたのでした。

 大人のための絵のない絵本、少し不思議な癒し系ファンタジー。

 

第1夜

“月うさぎ、指輪をもらう”

 細い細い三日月が、真っ暗な夜空に浮かんでいました。少し重たい荷物を引っかけたなら、今にも折れてしまいそうな細いお月様です。

 その儚い三日月から、白くて、ふわふわしたかたまりが、ゆっくりと舞い降りてきます。まるで迷子の蛍のように暗い夜空を漂った後、その白いかたまりは、大きな電信柱の上に着地しました。

 薄明かりに照らし出されたのは、一匹のうさぎでした。二本足でちょこんと立ち上がって、片手には綺麗な銀の懐中時計を持っています。

 慣れない人の目には、おもちゃ売り場のぬいぐるみのように映るかもしれませんが、こう見えても彼は立派な「月うさぎ」です。

 月うさぎは、自分の半分ほどもの大きさの時計をコンパスのようにかざしながら、辺りをきょろきょろと見渡しています。赤いビー玉のような瞳は、どこかおどおどした印象です。

 実を言うと、彼が月うさぎとして「仕事」をするのは、今夜が初めてのことでした。一族の中でも、まだ新米の月うさぎなのです。

 銀時計の針で、おおよその位置をつかむと、新米の月うさぎは長い耳をぴんと澄まして音を探します。

 時刻は深夜。周囲に広がる街は、とっくに眠りについている時間でした。子供たちの寝息や、お父さんのいびき、つけっ放しのテレビの音。遠慮がちな水音は、遅くに帰宅した人のシャワーの音でしょうか。

 そんな夜の音に混じって、やっと探していた声が聞こえてきました。

 月うさぎは、気持ちを落ち着けるために、深呼吸をひとつ。ふさふさの白い毛におおわれた胸をとんとんと叩くと、初仕事に取り掛かることにしました。

 目的の声は、七階建てのマンションの一室から聞こえてきます。そのベランダを目指して、月うさぎはふわふわと夜空を飛び立ちました。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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