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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

トリガー 誘発! 2

   

 他人の悪意を覗き見している誉田は、ついに背後をとられてしまう。じょじょに忍び寄る影は、誉田の身に制裁を与えようとする。しかし、間一髪でこれを回避。

 ひとつの悪意をつぶすことは、大なる存在の一部であることを知る。
 その名を”Happy laugh”。
 そして、その集団は動き出す。

 悪の存在からしたら、誉田の存在が悪意であると。その行いを獲得するか、それとも手に入らないのなら滅するか。
 その決意の日が訪れるそのとき、誰の志が正義へとなるのか。

 誉田は決意のトリガーを引けるだろうか。

 

 通り魔や背後からスクーターでバッグの窃盗なんて事件が日常で起こっている。
 そういうときには人通りの少ない、薄暗い場所、ひらけた道路、逃走に適したルート、そこまで考えているかはわらかないが、こういう場所にはなくてはならないものが、ない。

”防犯カメラ”。

 電柱に設えてあっても、事件性の比率が少ない場所に設置などしない。警察が設置してくれれば犯罪はなくなる。町中が監視されているからだ。もっともコンビニエンスストアでもあれば、監視カメラが捉えられるほどの遠方まで映っている可能性もなくはないが、おそらく些細な一瞬の映像だろう。
 走り去る後姿の1コマだけで、事件の追跡には困難を極める。スクーターのナンバープレートが映っているかもしれない。薄暗いところだからナンバープレートを折り曲げ隠すことなどしないかもしれないが、見事に撮影されていたら犯人に逃げ場はない。
 確実なる証拠というのは、映像だけでじゅうぶんなものなのだ。

 誉田 駿介(ほまれだ しゅんすけ)はそれがわかっているから自らを三脚にして、カメラを体の前後左右方向を小型監視カメラで日常二十四時間じゅう撮影している。

 個人個人が監視カメラを持つしか自己保護はできない。
 携帯電話の普及があっても、そのバッグごと窃盗されたわけだから、携帯電話はとうぜんバッグのなか。衣服のポケットにいれているものがいても、とっさのことで頭がはたらかない。
 撮影モードに切り替えるだけの時間があったら、おそらくスクーターの影すら捉えられないだろう。
 普段からなにかあったら撮影するなどという機転があればいいが(これについてはべつの話しで問題にもなる、モラルということで)、すぐに逃げてしまうから撮影には成功しないだろう。
 誉田みたいに常時、小型カメラで撮影しているものなら恐いものしらずかもしれない。
 誉田が窃盗されたとしても、撮影しているからかならずその窃盗犯を画像から証拠をみいだし、犯人への手がかりをみつけ追い詰めるだろう。
 警察は有能だと信じて、民衆はそれには期待する。ここまでの証拠があって逮捕できないのなら、公務員という地域住民を接待するだけの、ただの集合体にすぎないという結果になってしまう。
 この世界に正義はないということになる。

 夜中、終電に間に合った帰宅者が、それぞれの自宅へ歩を進める。誉田は影のように気配を消す。そして眼前の女性を尾行する。夜中ほど犯罪が及びやすい時間はないものだ。しかもそれは姑息な犯罪程度だ。姑息な犯罪が、幾億の悲しみを生み、小さい事件に泣いている。
 誉田は瞬時に危機感を感じた。だから尾行を開始した。女性の足元がふらついている。二十代のOL風に見える。おそらく今宵は宴会かなにか職場の仲間とかで飲み会でもあったのだろう。その帰りなのだろう。
 誉田がいくら推測してもそんなことには興味はない。これから起こる事態の予測が伺えるために慈善活動を開始する。犯罪撲滅に勤しむほどのお人よしではない誉田は、犯罪誘発により相手を奈落の底に陥れることの喜びに浸るための優越感を褒美としている。
 商店街を過ぎ、コンビニエンスストアや街灯の灯りの距離感が離れはじめた暗がりが女性をのみこんでいく。
「確実に、獲物になってしまうじゃないか」
 誉田の危惧は敏感に反応している。窃盗される鴨にはもってこいの人物とシチュエーションだ。
 ここ最近起きているバイク犯の窃盗事件。連日起きている誉田の地域でも多発なのだ。興味本位でその犯人たちを追い込んで誘発してやろうと考えていた。

”ブルルゥン”。
 誉田の耳は拾った。どこかからスクーターのエンジン音を立てているのが、しかし、軽率だろう。そんな音を奏でてしまっては警戒されるのはもちろんのはずだ。誉田は身を硬直していたのを自身でわかるほど警戒網を広げた。
 背後まで目視確認した。人影はない。視線を前方へもどす。女性はまったく警戒心がなく、フラフラとリズムの悪い足取りに、誉田はため息が漏れる。
「まったく、はやく歩け…そろそろくるぞ!」誉田はぶつぶつと強めな口調でつぶやく。物陰に隠れながら歩調をとめては歩く。かなり怪しい動きをしている。この道は人影がない。これもまた運がわるい。女性は確実にヤラれる。
 ジリジリとタイヤとアスファルトが擦れる音が誉田の耳に聞こえた。ゆっくりと迫ってくるスクーターに振り返る。二人乗りの影を捉えた。急加速しながら女性に近づくスクーター。歩道の右側を歩行する女性。左肩にバッグをかけ下げていた。スクーターを運転する人物の後方にいるもうひとりが女性のバッグを掠め取った。
 女性は思いがけない衝撃と反動によって、ふらつく足元から崩れ落ちた。冷たいアスファルトに倒れこみ、なにが起きたかわからず混乱していた。
 誉田は影のなかでしっかりとその光景を見届けていた。前方ではスクーターが闇のなかに消えた。どうやら左路地に逃げ込んだようだ。誉田はそっと姿を現し、女性に近寄り安否を確認する。
「だいじょうぶですか? スクーターの二人組にバッグを盗られたようですよ」
 女性は混乱して、あう、え、は、と声を漏らすだけだった。そうとう酒気を帯びているようだ。臭いがしている。これでは現実を受け入れるのはむずかしいだろう。それよか、この女性はしっかりと自宅へ向かっていたのかも疑問だ。
 誉田は警察へ連絡した。

 

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