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SF・ファンタジー・ホラー

サクリファイス クロニクル編9

   

 薔薇十字団から逃げ回るアーロンが、ついに反撃を思い付く。
 それは、シャルルをスパイに仕立て上げることだった。

 怪物サクリファイスを描いた、ゴシックダークファンタジー!

 

 それから、僕はアーロンに字を習った。何かあった時、手紙でのやり取りも出来ないようでは不便だからと。
 アーロンは、教えることが好きなようで、字だけではなく、体術や剣、音楽までも教えてくれた。無知な僕にとって、アーロンは恩人であると同時に師でもあるのだ。
 アーロンは、知的で多才、好奇心旺盛で自信に溢れた、まさに天才と言うに相応しい男であった。僕にとって、アーロンは憧れの人物になった。
 そんな、アーロンが逃げ回るしか出来ない存在、薔薇十字団。アーロンの志『錬金術を完成させること』に対し、否定的でもあると聞いた。アーロンの研究を阻害し、アーロンの手にした錬金術の全てを手に入れ、薔薇十字団以外の錬金術の秘密を知るものを葬る事を目的とする追跡は、身勝手であり傲慢、高慢以外の何者でもない。
 聞くと、アーロンは薔薇十字団から、かれこれ百年近く逃げ回っていると言う。ただ、カサンドラ隊が出来るまでは、それほどでもなかったというから、それだけ彼等が本気になったと考えざる得ない。
「そろそろ、反撃したいんだが」
 あれは、僕が字の書き方を教わっている最中だった。クレメンティーナと僕に言うよう、アーロンが呟いた。
「また、薔薇十字団の事?」
 クレメンティーナが、少し心配そうに返事をした。
「他に敵など居ないだろう」
 アーロンはそう言って立ち上がると、部屋の中を行ったり来たり。その様子を見ながら、クレメンティーナが僕に耳打ちした。
「シャルル、気にしちゃダメよ。アーロンは一年に何度か、ああして悩むの。でも、良い案が思い付かずに、諦めるんだから」
 僕は、アーロンに解らないよう静かに頷いた。
「なんとか薔薇十字団の一人を味方に出来ないものだろうか。我々の事を実際に知ってる奴は、もう薔薇十字団に残ってないんだし、今や我々の事も伝承となりつつある訳だ。そこに目を付けて、薔薇十字団の一人でいいから味方にして、内部から破壊出来ればいいのだが」
「私達に近付いて話を聞こうと考える頭の持ち主なんて居ないわよ。クリスチャン・ローゼンクロイツの名の元、自分達の理が絶対だと信じきった奴等ばかりなのだから」
「薔薇十字団の中に、反逆の心を持った奴はいないだろうか?」
「さあ? 居たとしても、確かめる術なんてないわ」
 ふいっと顔を背けたクレメンティーナに対し、アーロンに提示された単語を書き終えた僕は、ふと顔を上げた。そして、不意にアーロンと目が合った。
「いいや。術はある」
 クレメンティーナが、はっとして顔を上げた。
「シャルルを使おうか」

 アーロンのこの一言が、僕自身を破滅へと導く事とになるとは、この時の僕にはまだ想像も付かなかった。

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