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SF・ファンタジー・ホラー

サクリファイス クロニクル編10

   

 アーロンの計画によって、薔薇十字団へ接触するシャルル。
 薔薇十字団の娯楽として戯曲を演じるため、カサンドラによる人間を証明するための裁判を受けることになるのだが、それは拷問と呼ぶに等しいものだった。
 15世紀を舞台に、サクリファイスと呼ばれる怪物を描いた、ゴシックダークファンタジー!

 

 エイハブ・ブレア。彼は、薔薇十字団カサンドラ隊の副隊長であった。
 エイハブは、今の僕から見れば欲深く、あまり頭の良い男ではなかったように思う。
 彼は隊長であるカサンドラ・イーリィを嫌い、恨んですらいた。この時代には珍しく教養のある彼女に対し、エイハブは女のくせにとよく吐き捨てていた。カサンドラ自身も男を駒のように顎で使っていたから、彼女を恨む男はエイハブ以外にも沢山いた。
 エイハブは錬金術の理を手にし、カサンドラ隊をひっくり返してエイハブ隊にする事を望んでいたようだ。そして、アーロンと仲間になり、尽きない金と滅びない身体と魂の元、薔薇十字団を乗っ取ろうと考えていた。だから、隙を見ては別行動を繰り返し、アーロンとの接触を必死になって探していた。
 エイハブの筋書きは、こうだ。僕をカサンドラ隊の娯楽として、カサンドラによってカサンドラ隊に僕を出入りさせる。暫くして、僕を魔女として吊るし上げ、魔女裁判に架け、火刑にする。その際、カサンドラにも責任を負わせ、カサンドラにも魔女裁判、火刑を架すのだ。
 アーロンの計画は、僕をカサンドラ隊の中に侵入させ、錬金術の理を餌に仲間を作らせ、反乱を起こさせる事だったから、あながち外れてもいなかった。
 僕は、とうとう死ぬのかと思った。死ぬのは初めてだったから、とても恐怖した。
 死に対し、僕がナーバスになるとクレメンティーナがいつも優しく接してくれた。アーロンが師であるなら、彼女は僕にとって優しい母の様な存在であったのだ。
「シャルル。初めての死は、本当に怖いものよね。私もそうだったから。でも、私は蘇った時の方が何故か怖かったの」
「クレメンティーナも、死んだことがあるの?」
 僕の質問に、彼女は遠くを見ながら頷いた。
「あれは、百年近く昔の話。薔薇十字団に追い詰められ、逃げるために、私達は自ら身を投げた。寒い夜だったわ。アーロンのとっさの判断だった。追い詰められた私達は、薔薇十字団が近付けないよう自らの身体に業火を纏い、断崖から飛び降りたの」
 僕は、声を失った。
「私達の遺体は海に吸い込まれた。波に流され、知らない海岸で目を覚ました私の姿は、裸に近かったわ。身体に纏う汚らしい布切れは潮で腐食していて、しかも焼け焦げた跡があった。私は、こんな状況でも生きている自分に恐怖した」
 クレメンティーナは、笑いながら言った。
「シャルル。死んだ方が楽なことも沢山あるわ。死んで、切り抜けられる事もある。死とは悪いものじゃないの」
 そして、クレメンティーナは悲しそうに言うのだ。
「私達には、子供が出来なかったの。この先も、出来ないと思う。今更、子供を作る勇気もない。だから、シャルル。貴方を、私達の子供だと思っている」
「クレメンティーナ。死んでいる間は、どうなっていたの?」
 クレメンティーナは、教えてくれた。
「夢を見ていたわ。人間だった頃の夢よ」
 クレメンティーナに人間に戻りたいのかと聞く勇気は、僕には無かった。

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