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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

アゲハ蝶 episode3

   

 重い罪で苦しむファジーに、ネザーランドの父親が自分の過去を語り出す。

 アウトローハードボイルドサスペンス!

 

 人を殺す度、心を失って行く気がした。人の絶望する顔も、死を前にした恐怖も、青ざめた死の顔も、何度も何度も夢で見た。何度も何度も夢で見過ぎて、とうとう心は麻痺してしまった。
 そうなってしまう前に耐えかねて、気が変になった仲間もいた。
 当時仲が良かった娘を殺ったのは私。私が組織へ入れられた一週間後くらいに来た娘で、優しくて華奢で、私なんかと比べ物にならないくらいに可愛かった。
 彼女は、初めての仕事の罪悪感に潰されて壊れた。髪が抜け落ち、手が洗い過ぎで腫れ裂けても洗い続け、終いには自律神経も極端に崩壊し、過食拒食を繰り返した。

『やめて!! 私、頑張るから!! お願い!! 助けて!! 助けて!! お願い!! 助けて!!!!』

 彼女は、命乞いをしながら泣き叫ぶ女へと成り下がった。

『ねぇ、ファジー……友達でしょ?』

 そう彼女が言い終わると同時に、私は重々しい引き金を引いた。

 今でも、覚えてる。
 あのトリガーの感触と、ハンマーの稼動する衝撃。硝煙の臭い。わざと、彼女の血飛沫を浴びたんだ。浴びろと、言われたから。
 目の前で、私の握る拳銃によって彼女は死んだ。

『ファジー、戦いの最中(さなか)は、身体の中心を狙うのが常識だ。だがな、今は違う。処刑なんだ。可愛そうだと思うなら頭部を狙え。確実に死ねるようにだ。そして、血の温もりと、その臭いを味わっておけ』

 そう、これが私が初めて人を殺った日の出来事。

 初めての仕事は、トモダチの処刑。トモダチというのもおこがましいか。

 彼女が泣き叫ぶ姿が辛くて、もしかしたらもっと惨めな姿を見るんじゃないかと考えたら、簡単に引き金が引けた。かつてはトモダチだと語り合った人間に鉛弾をブチ込んだ直後、私の前で見せた彼女の姿はやっぱり惨めで……気持ち悪いとさえ感じた。
 鉛弾を額に喰らい、白目を剥きながら、鼻から口から血を出して、仰向けに倒れたトモダチ。怖くなって、近付いて、銃弾か無くなるまでシリンダーを回転させた。回転させるたび、私の顔に、身体に、赤い花びらの様な物が飛び散った。最後に、彼女の眼球までもが飛び出して、地面にずり落ちた。
 その姿が今でも亡霊となって、死ぬことが怖いと感じる。
 私も彼女のように醜くなって死ぬのかな……とか。
 恐怖だけが、私を生かした。
 彼女のように壊れることも、ましてや自殺することすら出来ず、ただただ狂った様に人を殺め続けた。もう数え切れないぐらい殺めた。殺めて、殺めて、殺めて……それでも私は生きている。
 今度は生きてることが怖くなって、あの雨の日組織を飛び出した。

*****

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

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