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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

赤いルージュを拭って<前編>

   

 鑑定士・緋影はジュエリーやブランド品を鑑定していくうちに、人間の内なる心まで鑑定してしまうイヤな人間である。だが、時にはそのひとくせある特質が、来店してくる訳ありなお客様の心情のケアにつなげることもある。
 人間もまた原石で、他人の救済の手で研磨することで、輝く高価なジュエリーなのだ。
 今回の悩める”赤いルージュの女”もまた、緋影の救済が必要な傷ついた原石である。彼女の抱える心の傷は男女で過ごす恋人同士でも訪れる衝突の問題だろう。
 緋影は、ジュエリーを通して、鑑定士として微力な助言、助力に手を貸すのだ。

 

 
 池袋東口で信号待ちをする真っ赤なワンピースを着こなしている若い女は、砂漠地帯の中心にでもいるようなほど孤独に立っていた。

 周囲の男たちは年代かまわずに、その妖艶なまでな女をまさぐるように下から上へ、上から下へと舐めるように視線を泳がす。きわめつけは、その華奢な体に似合わないほどのボリュームのあるバストだ。白い胸元と谷間を惜しげもなく、自宅から信号待ちするこの瞬間も女はまったく気にもせず、みせびらかせていた。

 真っ黒なサングラスで顔を隠すようにしているが、その容姿に釘付けになるほどの魅力があふれている。腰まである金色のロングヘアーを歩くたびになびかせ、真っ赤なルージュを塗りたくった唇を中心にして、その下に視線を移せば否応にも目立つふくよかなふくらみのある胸。脂肪など無縁だったと思わせるほどの華奢なスタイル。コツコツとヒールの音を高鳴らせながら、歩くスラリと伸びる脚は見惚れてしまう。

 その女が昼の1時にどこかへと向かう。夜の仕事に出向くようなイメージで、真昼間からこんな女が街を歩くこと自体、大事である。違和感があり、存在そのものに警戒心がこみ上げる。サングラスとすました唇のせいで、愛想のない印象、クールなイメージで他者を寄せつけない。

 だが、サングラスの上からでもわかるほど浮かない顔をしているように見て取れるのは、もしかしたら不機嫌なのかもしれない。そういう印象の女を、だれも話しかけたりはしない。具合でも悪ければ偽善者ぶって声をかえるだろう。そもそも、そんな態度ではない。

 ナンパ待ちで池袋を散歩しているわけではない。なにかしろのそのすぐれない顔を晴らすために、この場所に来ているのだけはわかる。その街にあう人間の種類というものがある。池袋には、似合わないその女に、池袋にいる人間たちは、動揺を隠せずにいる。

 信号が青になり、その足先はサンシャイン通りへと向かっていった。

 平成26年にもなると、池袋サンシャイン通りも変わり始めた。新しい店がどんどん出来ている。馴染みのある映画館がなくなり、どうやらファッションショップのビルが建ちそうだ。ほんとうにファッションショップが入るかは定かではない。ゲームセンターか、もしくは映画館がリニューアルしたのか、普通に日常を過ごしていれば、いつのまにかオープンしているだろう。

 にぎわう若いカップルがその工事中の建物を見上げている。今風っていうか、そういうファッションがバブル時代のファッションを若い男女が着こなしているのを見かける。もはや、今風か古風かがわからない時代に突入したといってもいい。と、思えば看板を持つ可愛くもないウサギの着ぐるみの宣伝員。アキバを思わせるゴスロリファッションの女の子たちが広告のためにティッシュ配りしている。黒ずくめのスーツでキメキメの髪型をした若い男たちは、おそらくナンパだろう。

”昔も今も、人間の中身は変わりはしない。同じだ。成長過程というものだが”。

 赤いルージュで赤いワンピースの女は、佇んだ。真っ黒のサングラスの奥から見定める。

「SHADOW BRAIN・HIKAGE」と看板がある。

 シャドウーブレイン・ヒカゲと読むが、英字を殴り書きにしたオシャレな書体で店舗の上部に看板が掲げてある。店先の幟(のぼり)には「高価買取・買取専門店」とあり、謳い文句は、「汚れやダメージがあっても査定します」と、ある。

 決め手は、「ブランド買取専門店」とあれば、その手の顧客が来店するのは否めない。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

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