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ショート・ショート

夢で逢いましょう<2>遠くへ行きたい

   

 あこがれを知る者のみ、我が悩みを知らめ。(ゲーテ)

 

 彼の同級生の中でいちばんの人気者はカール・ハインツであった。
 なにしろ貴族の長男であり、将来は爵位を継ぐことが決まっている。
 もう皇帝にも拝謁を済ませている。
 彼は、仲間に囲まれて得意気なカール・ハインツを遠くから見て、ため息をついていた。
 彼には、将来を約束してくれる家柄はない。
 カールを見ながら、家柄が何だ、僕は家柄なんかに頼らない、いまにみてろ、と思うのであった。
 同級生の中で、運動がいちばんできるのはピーター・レンツであった。
 剣技から乗馬、鷹狩りまですべてに優秀なのであった。
 軍事教練では、つねに最高点。
 いずれは佐官から将軍にまでなるだろう、と同級生は噂していた。
 彼は、ピーターが嫌いであった。
 運動が嫌いであった。
 軍隊も嫌いであった。
 運動神経にめぐまれない彼は、身体を動かすなら、頭を動かす方がよい、と思うのであった。
 いまにみていろ、と心の中で繰り返していた。
 頭を動かす、つまりは勉強で頭角を現すのだ――。
 そう思うのであったが、しかし、彼の成績は、最下位であった。
 同級生の中でいちばん勉強ができるのはウイリアム・レナルトであった。
 とにかく理解力が早い。
 先生が一言説明しただけで、十を知ってしまうのだ。
 先生に質問したことなど、一度もない。
 それに比べると、彼は、先生に何度も質問をした。
 何度も聞かないと、よく分からないのである。
 よく分からないと先へ進む気になれない。
 とうとう、「質問ばかりして、しつこいぞ。こんなことが分からないのか。この馬鹿め」と怒られるのであった。
 完全に理解しようとしているのに、なんで怒られるのだろう、と彼は悲しくなった。
 やはり馬鹿なのであろうか、と思うのであった。
 いまにみていろ、という煮えたぎるような情熱はあるのだが、同級生でそれを知る者はいない。
 同級生はみんな、彼のことを、愚鈍な劣等生と思っていた。
 いまにみていろ、何時かきっと……、と心の中で何度も決心する。
 だが、何時、なのだろうか?
 何時、何をすればいいのだろうか?
 それが分からない。
 彼の学校生活は暗いものであった。
 それに、さらに不幸が加わった。
 ある晩のこと、彼は、両親の話を聞いてしまったのだ。
「じゃぁ、あなた、やはり……」
「うん。破産だよ」
「……」
「もう一文無し。この家も出て行かなければならない」
「ああ……、なんてこと……。子供たちには、なんて言ったらいいの」
「明日、何とか話そう」

 

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