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ラブストーリー

BAD=CHILD 1

   

 神城 霧樹(かみじょう きりき)十四歳は厳しい父親の強要に押し潰されそうになっていた。本人は何も考えずに気楽なのんびりな性格だが、父は将来の夢より後継者としての自覚を植えつけようとしていた。
 生き方を決められてしまった窮屈さに、耐え切れずついに家出をする。疾走しながらどこいくわけでもない放浪の旅。
 そこでひとりの年上の女性と出会う。その女の素性は秘密にされるが、何も持たないその女は霧樹に金をたかる。
 なんとなく行動を共にする二人だが、目的も宛てもない草木を掻き分けるように道を開拓していく時間は、霧樹にとって新鮮なものだった。

 そして、月光照らす夜、背中を合わせて眠るとき霧樹の成長していく姿が開花する。感情が欲情へと変貌する。
 次第に女の秘密に踏み込む。

 

 神城 霧樹(かみじょう きりき)十四歳は夕焼けが地平線の先に隠れようとしたころに、家を飛び出した。
 全力疾走。

 霧樹はこれまで学校の徒競走では、100メートルを17秒という遅い走力だが、このときの脚力は10秒台を出しているくらいのスピード感で、空気を切り裂き突っ走っていた。
「キリキ!」その声は、母親だった。背は低く、小柄で華奢だ。160センチの霧樹よりも小さく幼い容姿の母親とは恋人と間違えられそうなほど不憫な容姿ではある。大声などこれまでだしたことのないような上品で、古風なしぐさのある女性が周囲へ知られてもかまわないほどの咆哮をあげていた。
 しかし、その声は届かない。それだけの速度で駆け走る息子の成長をはじめて感じた瞬間でもある。
「放っておけ。馬鹿息子め」父親は厳格ある古風ある男性だ。眉間にしわをよせ、白髪混じりの頭髪をわざと黒一色に染めないのは、威厳をかもしだすためだった。威圧感を与え、抑圧させるための空気感を与えるのだ。自宅ではいつも着物で過ごす、まるで日曜の夜六時の国民的アニメに出ているお父さんのようだ。
 そんな両親を持つ霧樹に子供らしい時間や自由がなく、束縛された窮屈さに耐えられなくなってしまっていた。坊主頭の少年とはちがうのだ。
「くそ、くそ、くそ、親だからっていつもぼくに、教養を強要しやがって、しゃれにならねーよ」疾走しながらも行く場所もなく、このままだとほんとうにその身は失踪するかもしれない。
「ほんとうの実力のあるぼくを知らない両親に全力をだせる瞬間が逃避のときしかないのか…皮肉だ」

 子供が反発するきっかけなんて簡単だった。
「キリキ、おまえは将来のことどう考えている?」
 父親の唐突な問いかけだった。
「わからない。特にやりたいものはないけど」
「情けない男だ。わたしの会社を継ぐことはらくかもしれないが、おまえにも自分の道をみつけたらいい。世襲だのなんなのだって会社のイメージが将来的にもおまえに課せられてしまう。どうせならしっかりと実力をつけてだな…」
 そこで、母親が割ってはいった。「むずかしい話しはあとにしましょ。食事できましたから食べましょう」
 小言の父親を制止するのはいつも母親の手料理だった。それなりにテーブルの上を埋め尽くすだけのいつくもの皿が何品もある。
 霧樹にとっても救いの料理なのだ。と同時に命を肉体を増長させる食事には感謝をしきれない感情が14歳ながら抱いていた。
 霧樹は白米をくちに運ぶときに、父親の声質のわるい肉声が脳内をめぐっていた。自分になにができるかを模索する。
”ない”。
 生きていることにさえ落胆を感じていた。友人、家族、将来、夢、恋、だれもが悩み、もがき、分厚い壁にぶちあたって肉を削りながらも挑みつづけている。
 霧樹はその道にひとり現実から逃げていた。
”孤独でいること。それが自分らしさだろ”。霧樹の脳内ではそう、もうひとりの”キリキ”が呼びかけていた。
”脳内キリキ”。霧樹はそう呼んでいた。

 翌日の早朝。まるで、昨夜の晩餐の再現を体感しているようだ。
「キリキ、おまえは将来のことどう考えているか、それを考えたか? 一晩あれば考えるだけの時間はあっただろう」
 霧樹は、朝から暗い顔をして黙することに徹した。
「お父さん」母が代弁した。「朝から、そんな話しをするのには時間がないと思うけど」
 ナイスだ。霧樹はそう思った。同感。そんな込み入った話は、夜でも嫌気がさす。もう二度とその手の題材の話は願い下げだ。
「だめだ。なんだったらきょうは学校を休んでも、徹底的に方向性を見出して、そこへむかって人生論を理解してもらったほうがいいだろう。中学校なんて義務教育なんかいってても時間の無駄だ。わたしなりの教育法で勤勉を叩き込んだほうが効率もいいし、勉強もはかどるってなもんだ。そうしなさい」
 父は断定する言い方をすると、それは絶対であるのだ。その証拠に、この話をしたあと、母は救済の代案を、いわゆる反論がでなかった。
「いや、それはちょっと、学校いかないと…」中学生なりの義務を建前に、言い訳にして父との距離をおきたい霧樹だった。
「かまわん。学校なんかどうでもいい。それより将来にむけての教育をさせてやる。そのほうがいい。父さんが思うに、学校というのは勉強をしにいく場ではない。同年代の子どもとコミュニケーションをとる場だとはわかる。社会人でもそういう面はだいじだろう。いち社員はな。だが、おまえはちがう。わたしの後継者ということであれば、ほかの社員とは異なり数ステップの飛び級で役職に就け、そしてわたしの座る席で立場あるポジションで社会にでれるだろう。どうだ?」いい終えると勝ち誇ったかのようにニヤニヤとする父だった。
 たまらずその長い話をきいていた霧樹だったが、もううんざりだった。導火線に火がつき、弾薬までとどいた。
 バンッ! 霧樹はテーブルに両手で強く叩きつけた。
「もう、やめてよ。ぼくはあなたの操り人形じゃない! 自由にさせてよ!」
 といった瞬間、両親のきょとんとした瞳が滑稽だった。ここまでの反論をしたことがなかったからだ。
 初めての反抗。これが、反抗期の瞬間だった。そして、そのまま霧樹は自宅を飛び出した。
 背後から母が大声で呼び止める声がきこえたが振り払った。
 無我夢中で走る。もっと遠くへ行きたい。知らない場所へ。聞いたこともない街の名前へ、奔る。疾走。失踪。
 その思いからすぐに電車にも乗った。遠くへ、とにかく遠くへ。
 無我夢中に疾走しているとき、”脳内キリキ”が「遠くへ、遠くへ」と呼びかけていた。霧樹はその呼びかけに従った。
 そして、車両の中から見える景色に微笑む。
「なんか自由な感じだ。これが自由って感じだ。そうだろ…」”脳内キリキ”に話しかけていた。

 

-ラブストーリー

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