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大臣を撮れ!

   

20××年、小党乱立時代を生き残るべく、各党は来る参議院選挙に向け、熱い戦いを繰り広げていた。

そんな中、雑誌「週刊時雨」に所属しながらも選挙担当を外された遊軍記者、堀内 省吾は、現役大臣のスキャンダルを撮るという密命を帯びていた。

選挙に全マスコミが集中している状況での特ダネは、今にも休刊が噂されている雑誌を一躍注目させることになるはずだ。しかし、派手にやり過ぎると公選法の絡みで大変なことにもなりかねない。

そこで堀内は、「民間人大臣」の一人である、銃器等管理担当相、早田 博敏にターゲットを定めた。

選挙にも政党にも関係ない早田だったら、公選法にも影響せず横槍も入らないと踏んでの選択だったが、堀内の側には予算も権力も、加えて言うなら時間もない。だが、追い詰められた状況の中で堀内たちは、早田に潜む「異様さ」を感じ取る。

堀内は果たしてスキャンダルをものにすることができるのだろうか……?

 

 堀内 省吾の耳に、選挙カーの大音量が響く。
 もう二十一世紀になって何十年も経とうと言うのに、選挙期間中のこうした光景だけは、未だに昭和の匂いを色濃く残している。
「まったく、精が出るな。この暑い最中だってのに。最高気温四十二度だぜ。いくら貴重な一票を持ってる有権者つっても、わざわざ立ち止まって聞いたりはできねえよな」
 堀内は額から噴き出してくる汗を拭うと、氷がたっぷりと入ったグラスから、一気にコーヒーを飲み干した。
 喉はまったく渇いていないが、こまめに水分補給をしておかないと、ひっくり返ってしまいそうだ。
 何しろこの部屋のエアコンは完全に壊れてしまっているのである。
「おいおい。選挙報道が売りの『週刊時雨』の記者さんが、そんな態度じゃいかんだろ。俺たちみたいな人間でも、この時期ぐれえは熱心な読者になるってもんなんだからよ」
 堀内と同じようにコーヒーを飲んでいた、田口 正一が横槍を入れてきた。
 田口は、この熱気がこもった空間でもほとんど汗をかかず、また表情も崩さない。
 下手に不愉快さを見せると後々どうなるか分からないが故の「職業病」だというのが、田口の主張である。
「人目につくのは嫌いなんじゃなかったのか?」
「もちろんコンビニで立ち読みしたりはしねえよ。ただ情報収集は大事だからな。誰が選挙で落ちて金に困るのか、誰が不自然に票を伸ばすのか、そういうこと全てが仕事のネタになる」
 人懐っこそうな笑みを浮かべる田口に、堀内は「ふん」と鼻息を漏らした。
 田口は、「本職」ではないが、カタギでもない。いわば裏社会側の下働きをして稼いでいる一人である。
 専門は情報を獲得することであり、その点においては堀内たちと被る部分があるが、賄賂から色仕掛けまで何でもありのえげつなさは、到底週刊誌の記者が及ぶところではない。
 有能なのは確かということで、今回の「仕事」のために雇い入れたものの、堀内としては今一つ不安が拭えないのも確かだ。
「まあ何にしてもだ」
 堀内は、内心の動きを知られぬように話題を本筋に戻した。
「一月、いや、できれば二週間以内に『彼』の不正の尻尾を掴まねばならない。俺たちが速報で出す記事が完璧である必要はないが、事実ではなければならない。でないと、会社側を巻き込むどころか、俺のクビは確定する」
「誇張ではあっても捏造ではないスキャンダルを見つけてこなきゃいけない、か。なかなか大変だよな。記者も、議員の席みたく増員されればいいんじゃねえか」
「だとしても楽にはならんだろうな」
 堀内は首を横に振った。
 うだるような部屋の中には、相変わらず各党の選挙カーから出る音が響いている。
 恐らく、TVやラジオをつけても、同じような内容の言葉が飛び出してくるはずだ。

 

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