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ラブストーリー

BAD=CHILD 3

   

 霧樹は、実夏が事件の容疑で指名手配中だったことを知る。あまりの唐突なことだが、霧樹はそれを咎めることはない。ちがう道だが、互いに逃亡への旅の同行者であることは事実で、たった数日だが相手に頼っている状態だった。

 霧樹は実夏に問う。なぜ逃げるのかと。実夏は、自分は嵌められた。事件の真実を警察の捜査を信じて時間稼ぎのために逃亡することを選んだ。だが、その逃亡の原因は、実夏の恋愛感情から引き起こされたことに、霧樹の胸中はざわついていた。
 その気持ちが何なのか、自問自答している自分に嫉妬さえしていた。

 今は、ひと呼吸をおくように小屋のなかで過ごし、月夜が照らす二人に異変が生じはじめていく。

 霧樹と実夏の逃避への第一歩編。完結

 

 家出するものにとって、コンビニエンスストアというのは、現代社会の宝物庫であると霧樹は悟った。小屋から二百メートル弱離れているところにあるそのコンビニエンスストアで、霧樹はいつものように少し大目の食料を購入していった。すぐ食べるための夜食の弁当。ポテトチップスの菓子類。おにぎりやパンを数個。飲料をペットボトルの2リットルものを二本買った。食事は食べるときに買うことにする、とふたりで話しあった。保存のきく菓子類は手元に置いておくほうが都合がいい、実夏からの要望だった。
 小屋のなかは最小限のものしかない。火燃料がないから、いちばん求めているものを手元に置いておけないのが霧樹はとても残念だった。つまりがお湯が沸かせない。カップラーメンが食べれない。コンビニエンスストアで購入してその場で作って食べるということしかできない。
 電気も通っていないから扇風機があっても作動できないし、水道もない。あるものはなにもない。不自由極まりない環境に置かれると、現代人の衣食住の整った暮らしから逃避してしまうと不器用さにどう対処していいか困惑してしまう。
 どうやってこの状況の室内で暮らすというのか。霧樹は、野宿よりはましかと思うが、やっぱり不便さにやりきれない思いでいた。かんちがいしていた。小屋というからには自分の部屋と同等と想像してしまっていた。広さは広めの八畳、エアコン付き、家具完備、電気水道ガスはもちろん利用できる。インターネット環境もありテレビもみれる。なんてことを想像していた。
 いまの自分を忘れていた。大金持ちの”神城貿易の社長の息子”ではない。ただの家なし現実逃避中の子どもであると受けとめなければならない。
「そうだよな。これがほんらいの現実だ。ぼくは、なにを浮かれていたのか。ちょっとはましな生活を…なんて考えた時点で、ぼくの家出逃避行はまったく意味がないじゃないか」
 実夏は、小屋のなかで暑さをしのぐように、適当なサイズのダンボールの切れ端をうちわ代わりに作成し仰いでいた。なにもないところから生み出す発想が霧樹より人生経験が長い年上の実夏には備わっている。
「それいいね」霧樹はうらやましそうにいった。外出して重い荷物をもって厳しい夏の暑さもまだ夕焼けだというのに、その色同様燃えるようにたぎっていた。
「自分で作って、材料はその辺にあるでしょ」実夏は暑さから苛立っていた。思っていたいじょうに設備が整っていない小屋に苛立っていたのだ。
「小屋だからね、しょうがいないよね」霧樹は残念そうにいった。
「冷たいドリンク買った?」実夏は、少しでも熱のこもった体内を発散させるために少年に要求した。
「はい」霧樹は、素直に応じて手渡した。炭酸飲料だ。年上の女性は、ちからをこめてキャップを握りまわして取った。シュワーという爽快な音を弾けさせながらまるでビールでも飲むかのようにグビグビッとのどに流しこんでいた。
 それを見ていた霧樹は、のどというより全身に渇きを感じて焦るようにして飲みだした。まるで自分も大人だと見栄を張り、ビールを飲み干すかのようにして、むりにでも実夏についていこうとしていた。
「キリキくん、質より量はわかるんだけどね、贅沢はいってられない状況なのは重々承知しております。でも、せめて缶コーヒーのみたいな、ダメかな?」
 めずらしく年上の女性が上目づかいで甘える子猫がねだるように少年に頼んできた。
「え、そうか。そんなにほしいんなら買ってくるけど…」慣れない女性の態度にぎこちなくなってしまうその空間に、男女の空気感が取り巻くこの小屋のなかにはいられないと判断した霧樹は、とっさに遠ざける口実を与えているのも、その子猫だった。
「行ってくるけど、ほかにはなにかある?」
「気がきくね。そんなキリキくんは将来とてもすてきな男性になりそうね」微笑かける女性に、からかわれていることを知る。
「もう、わかったから、ほかにないなら行くね」
「よろしく~」手を軽く振る実夏に呆気にとられる少年だった。

 

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