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ラブストーリー

BAD=CHILD 4

   

 警察は、野々原事件の本部を立て捜査を開始する。第一責任者として大桐刑事、そのパートナーの松仲が先導する。が、なかなか行方がわからない。ほかの捜査員も空振り状況であった。

 銀行で上司の籾山をその手にかけて逃亡する。その逃走ルートがわからない。数多の監視カメラがあるなかどうやって姿を映さずにその身を消したのか、そこから捜査がはじまった。だが、腑抜けた新人刑事小田がある証拠をみつけた。
 そこから少年と共に逃亡しているのを、これまた非番の小田が目撃した。
 そこからその少年の素性が明らかになると、温和な本部長の野心が目覚め意外な捜査指令が実行する。
 大桐、松仲はその命令に心は穏やかではなかった。

 第二部スタート。警察の視点で、ホシを追う。

 

 警察は逃亡した野々原の行方を捜索する。しかし、蛇のようにスルスルと捜査網を掻い潜ってしまう。どの網にもかからないほどの抜け道はない、街にも監視カメラがある。街自体が監視網で張り巡らされているというのに、確保できない。どういう女であるのか、警察はもっとこの女を知り尽くしていればよかったと、後悔しての熱のはいる捜査に焦っていた。
「超枝本部長、お願いがあります」
 野太い声で対面するのは、野々原事件の捜査責任者の大桐 進辰(だいどう しんたつ)39歳だ。
「どうした?」現地本部長の超枝 英知(こしえだ えいち)44歳。物腰が柔らかく、頭の回転が速いが、これまで冷静さを欠いた行動をみせない超絶な精神をもちあわせていた。
 大桐は顔を近づける。ひげとオールバックの威圧感は、冷静な超枝の眉間にしわを寄せるだけの圧迫感を放っていた。
「捜査員をもっと集めてローラー作戦で、捜査網を広げましょう。もはや都内にはいない可能性がある。そうなれば千葉県、埼玉県、神奈川県に逃亡したかもしれない。全国指名手配してもいましかないんですよ。鉄は熱いうちに打たなければ逃げられますぞ」
 超枝は、軽くうなずき、その暑苦しい男が引くように両の掌をみせた。
「わかっておる。しかし、それだけの捜査網を広げても都内に潜伏していたら逆効果だろう。かくまっている仲間がいるかもしれない。そうなれば都内の捜査人員が手薄になるかもしれない。それに、そこまでの大犯罪者ではないと、私はにらんでいる」本部長の発言とは思えない。懲戒免職ものの物言いは、大桐の警察魂を冒涜された。
「なにを甘いことを…、どういう根拠があってそのようなことをいうんですか? われわれは必死で捜査しているんです。どんな理由であれ、横領と殺人未遂の犯罪者に情けは無用です。徹底的に追い詰めて逮捕するだけです。野放しなんかできやしません」大桐の見開いた眼光は血走っていた。
 唸るように考えこむ超枝本部長だった。そこに駆け込むひとりの捜査員。
「大桐刑事!」
「大声をだすな!」と、大桐はもっと大声でその声の主を叱る。
「すみません」松仲 茂和(まつなか しげかず)31歳。大桐のパートナーだ。優れた若き刑事だ。
「小田のやつが、手がかりをみつけました」
「なに?」大桐が叫んだ。
 大桐のリアクションに超枝本部長も心労に障ると、だが指摘したところで地声が直るわけもなく、我慢しているのだ。
「それで?」
「はい」松仲は本部長にむいて話す。「監視映像に映ってました。野々原が銀行で上司の籾山を鈍器で殴り、負傷させて逃げる瞬間の映像です。そのあと、どこへむかったかわかりました」
「どこへって? あの銀行から出た映像はくまなく探したが映ってなかったよな。銀行のエントランス、裏の出入り口、地下駐車場。そこくらいだろ…」大桐の声のレベルのバネが損傷しているのかもしれない。真横にいる相手でも10メートル離れた相手と話すくらいの声量なのだ。
「いえ、もうひとつ方法があったんだです」松仲は、パートナーだけあって、その大桐の声量に動じることなく冷静に話す。「食堂のダストシュートです」
「なんだと?」
 高層建築のビルには、各階から廃棄できるごみ棄てのための、チューブを通し最下層で集積できるようになっている。銀行は一階だったが、二階が行員の事務員バックオフィスがあった。犯行現場はその二階だった。体重の軽いスレンダーな野々原ならそのダストシュートは通れるだろう。だが、ただ落下するだけで地下一階で集積されるごみ棄て場。すでにその日のごみが山積みとなっているため、二階から落下しても人間に負傷はどこにもない。
「落下した集積場は監視カメラがない場所で、そこからごみ収集車に潜りこみ逃亡したのだと推察できます」
「でも、なんでそこから逃げたのがわかった?」大桐がきく。今度は聴覚を塞ぐほどではなく普通に聞ける声量だった。
「はい。イヤリングが落ちてました。集積場は監視カメラがないものの、ごみ収集車が出発するときの映像は途中で映っている。だから人間が徒歩で逃げるということは、確実にその地下の監視カメラに映しだされるはずです」
 松仲の推測は的確なものだった。それいがいに身を隠し、銀行が入っているビルの監視カメラの目に、死角はない。木を隠すなら森に…ってことわざがあるが、身を隠すなら、大きいもののなかにはいり、運んでもらうという方法が衝動的犯行だったとしても考え浮かぶ唯一の方法だろう。
「そのあとはどうなった? それでもどこかしろ検問とかに引っかかるか、警官のパトロールで怪しい人物がいればすぐにわかる」大桐の声量はふたたび大音量に切り替わった。
「白熱するな。松仲くんの報告をすべて聴いてからで…」超枝がたまらなくその立場から大桐を制した。
「そのあとは、不明です」松仲は超枝本部長のフォローに応えられない歯がゆさに頭が垂れた。
「そうか」恥をかいたのは本部長となった。
 長年のパートナーだからこそ、すでに報告の終了が見えていた大桐だったから声を荒げていたのかもしれない。
「とりあえず、捜査あるのみで、いいですね本部長!」大桐が超枝に眼光を放つ。
「待ってください。ここまでは、私の報告です。小田の報告がまだ…」
 大桐と超枝は、目を見開いた。「なに?」

 

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