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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

自称天才数学者の推理記録 記録5 第4話

   

記録5《赤と黄色》

今回は、中編です。
その4。
タイトルの「黄色」は、信号では注意の色。
つまり、注意を促す危険な色なのです。

 

 
 次の日、朝8時に、大川六郎が車で迎えに来た。
「翻訳を始めるのは9時からです。十分、間に合いますよ」
 金沢の市街に入り、大川六郎は、コインパーキングに車を入れた。
 そこから、2人で、歩く。
「ここです」
 着いたのは、金沢21世紀美術館の近くであった。
「あそこのビルの3階。ほら、右端の窓です」
「分かりました。ええと……」
 桜小路悟一は、周囲を見回した。
 都合よく、道路を隔てた所に喫茶店があった。
「私は、あそこの喫茶店にいますよ。あそこなら、あなたの姿も見えるし、ビルの外も、よく見渡せる」
「それで、私やビルの外を見て、どうするのです?」
「何か、変化を待つのです。ともかく、情報を集めないと、推理は出来ない」
「そうですね。では……」
 大川六郎は、桜小路悟一を残して、ビルへと向かった。
 桜小路悟一は、喫茶店に入り、窓際の席へ座った。
 まだ午前9時になる前である。
 客は、桜小路悟一だけであった。
 モーニングセットを注文して、ビルの3階の窓を見た。
 ちょうど、大川六郎が部屋へ入ったところであった。
 大川六郎は、喫茶店の方を向き、軽く手を振った。
 そして、机に座った。
 待つまでもなく、1人の男が部屋へ入ってきた。小太りの体形をしている。
 カバンから、本、それに筆記用具や大学ノート、さらに、黄色いウインドブレーカーを出す。
 大川六郎は、背広を脱いで、ウインドブレーカーを着た。
 すぐに、机に向かい、翻訳を始めた。
 小太りの男は、うなずいて部屋から出た。
 そして、小太りの男は、ビルから出てくると、そのまま歩き去った。
 桜小路悟一は、こうしたことを、喫茶店から、見ていたのである。
 そして――。
 その後も、ビルの窓を見た。
 といっても、じっと見続けていたわけではない。
 なにしろ黄色いウインドブレーカーの後姿である。
 かなり目立つのだ。
 何か変化があれば、すぐに分かるであろう。
 ときどき横目でビルの窓を見ながら、持参した本を読み始めたのである。
 難しい数学の本ではない。
 世界の小話を集めた本である。
 桜小路悟一は、テレビの番組を持っている。
 内容は、数学の話。
 サインとかコサイン、常微分方程式の特殊解など、かなり難しい内容なのである。
 これをそのまま話しては、面白くもなんともない。
 それを工夫するのが、天才数学者の腕の見せ所であった。
 桜小路悟一は、ミュージカル仕立てにし、CGを多用して、視聴者を引き付けた。
 話す内容も、しっかりと脚本を作り、練り上げたのである。
 そして、番組の最初には、必ず小話を入れ、笑いをとることにした。
 いわば、落語のマクラである。
 そのネタを探すのに、『世界小話全集』を持ち歩いているのであった。
 桜小路悟一は、面白いと思う小話を、メモした。
 例えば、次のようなものである。

 小話その1。
 隣の空き地に囲いが出来たね。
 へぇー。

 小話その2。
 隣の空き地に塀が出来たね。
 恰好いい。

 

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