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SF・ファンタジー・ホラー

サクリファイス クロニクル編14

   

 三百年の眠りから目覚めたシャルルが出会った少年は、少女ロザリーナと言った。
 彼女との他愛ない日々に、彼女への想いを持ち始めるシャルルであったが、幸せな時間も長くは続かないことを告げられるのであった。

 サクリファイスと呼ばれる怪物を描いた、ゴシックダークファンタジー!

 

 それから、再び目を覚ました彼女は、諦めたように自分を見て呟いた。
「ここは、どこ?」
 僕は、自分が知っている範囲の内容を彼女に教えた。
「フランスで、スペインに近い海の近くだ。森を抜けたら、小さいけど村がある。反対の森を抜けると、海に繋がる。そこで嵐の翌朝、君を見つけたんだ。君はとても酷い怪我をしていて、昨晩目覚めた時はとても興奮していたけど、僕は君に何もしていない。信じて欲しい」
 彼女は、僕のブラウスの袖に付いた血に目をやった。
「着替えないの?」
「この服しか持ってないんだ」
「おかしな人ね。痛む?」
「いや、大した傷じゃないから。何か食べるかい?」
 彼女が頷いたので、僕は厨房に食事を取りに行った。彼女が目覚めたら食べようと作っておいたシチューとパンとワインを持って、彼女の寝室に戻った。
 彼女は僕のシチューを美味しくないと言った。だが、全部平らげてしまった。
「元気になったら、何か美味しいものを食べに行こう」
 彼女が、失笑した。
「本当に、おかしな人。貴方の名前、聞いてもいいかしら?」
 僕は、頷いた。
「シャルル・アンリ・バシュロ・ナルカン。君の名前は?」
「シャルル・アンリ」
 彼女は、僕の名前を小声で復唱してから続けた。
「私は、ロザリーナ・デ・ラ・ロサ」
「スペインから来たのかい?」
 彼女こと、ロザリーナは頷いた。
「君のこと、聞いてもいいかい? 何故、男装のような姿だったのかい? 嵐の日、何故海にいたのかい?」
 質問を捲し立てる僕に、ロザリーナは呆れた目を向けた。そして、窓に目をやり、先に明かり灯すよう僕に告げた。
 先程までオレンジに燃えていた空は、紫の帯を作り、その向こうに星が煌き始めていた。
 僕は床に転がる燭台を持ち上げ、彼女の横たわるベッドの横の棚に置き直すと、その棚の引き出しからローソクを取り出し火を付け、セットした。
「……ある村に、男の子みたいな顔をした女の子がいました」
 ロザリーナは、物語のように自分の事を語り始めた。
「女の子は、男の子と間違われるのが嫌で、いつも着飾ることに夢中でした。だって、女の子が男の子に間違われたくらいでは、男の子になれなかったからです。男の子に間違われるくらいなら、男の子になって自由に生きたいと、いつも思っていました。ある日、一隻の海賊船に出会いました。女の子は、村の娘達数名と共に、海賊船に連れ込まれてしまいました。そこで、女の子は悲観する訳ではなく、チャンスだと思ったのです。船員の隙を狙って服を盗み、少年に変装し、自由を手にすべく海賊船の船員になったのでした」
 つまらない話だ、と言わんばかりにロザリーナは淡々と語った。それだけ、壮絶な毎日だったのだろう。だが、僕には魅力的に思えた。
「毎日、怒鳴られ、殴られ、女の子にはそれでも自由を感じる逞しい日々でした。そして、船に乗ってから二ヶ月が過ぎようとした時、大きな嵐に遭遇しました。帆を畳み、船内に逃げ込もうとした時、ロープが女の子の足元に絡みつき、同時に大きな波によって女の子は海の底呑み込まれてしまいました。女の子は、自分が死んだと思いました。次は、貴方の番よ」
 僕はハッとし、どう語ろうか悩んだ。自分は三百年前の人間で、三百年間眠っていた、なんて言えない。寧ろ、信じて貰えないだろう。
「僕は……あまり人が好きじゃないので、この屋敷で独りで暮らしているんだ。両親も兄弟もいないけど、両親が少し財産を残しておいてくれたから、それで生活している」
 ロザリーナの黒い眼が、僕を疑うように睨みつけた。
「嘘ね」
「…………」
 僕は、何も言えず黙ってしまった。僕は、食器を片付けた。部屋を出る時、彼女に正直な思いを伝えた。
「君は、立派だ。自分の為に行動する事が出来たのだから」
 僕は、彼女の寝室を出た。
 この日、僕はクレメンティーナからの返事を受け取っていた。彼女は僕が目覚めた知らせを受け、取り急ぎ要件だけを伝えてくれたのだ。クレメンティーナからの手紙では、今は直ぐに会うことは出来ないけれど、会えるように準備するから少しだけ待っていて欲しいとの内容だった。僕は、手紙に会える日を待っている旨とロザリーナの事を書いた。

 

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