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ラブストーリー

BAD=CHILD 5

   

 超枝の心意が露呈し、その捜査本部の意向は警察の地位を維持することにある。そのなかで本事件の真実を追い求めようとするふたりの刑事、大桐と松仲はその意に反し、刑事らしく事件の真実を追走する。

 逃避する野々原が犯人ではない、と確信する松仲はある人物が真犯人で、きっかけではないか、と推察する。その証拠である生き証人。野々原を確保すればすべて明るみにでる。なぜ、逃げ続けるのか、むきあって戦えばいい。と思う反面、愛が心に蔓延るいじょうそれは野々原にはできないことだった。

 警察を信じて、警察の有能な捜査を信頼して、真相へつながるその糸を手繰り寄せればだれが犯人で、どういうシナリオなのかわかってくるはずだ。だから野々原は逃げている。
 そんななか、野々原と一緒にいる少年、神城 霧樹の素性をしった本部長の暗躍が電光のように走り出し、新米刑事小田に直接命令をくだしていた。それは警察としては意外なもどかしい命令だった。

 

 大桐と松仲は、喫煙所で一服していた。
「どうします? こんな捜査、納得いかない…」松仲は本部の方針に従えずに、こんな喫煙所で佇んでいるのだ。もっともそれは大桐も同様だった。
「まったくだ。本部長の本性が露呈した。まさかあんな野心をもっていたとは…」
「正義はどこにいったんでしょうね。金、金、金、ですよ。本部長がいっているのは…、一般の人を守るのは、金ではない。われわれ警察、人間なんですよ」松仲はいつになく鼻息が荒れていた。
「そうだな。だが、正義を謳っているやつこそが、真の悪だ。なぜなら、正義を振りかざし、たまに善たる行いをしてメディアで活躍振りを公言する。すると世間は共感して、さらにヒーロー像が勝手に一人歩きで設立される。あいつこそが、ヒーローだとな」
「そんなバカな…、それじゃまるで警察は正義をかざした暗躍の一派のようなものですよ」
「そうだな。上にいけば、年齢を重ねれば、だんだんとそういう初心を忘れて、本来の職務をまっとうしようという気持ちを失う。もしかすると踏ん反り返っているだけの椅子のすわり心地のよさに、刺激を求めようとしているのかもな」
 松仲は納得はいかない。自販機と向き合いながら、憤慨な面持ちでいた。「それって自宅のソファでテレビゲームでもしていればいいんすよ。バイオハザードなんかお勧めですけど」缶コーヒーを買うためにコインを入れようとする。
「悪を撃ちぬくのか?」大桐は冷やかすように笑った。
「ええ、銃の練習になるんだけどな、あのゾンビって、予測不能な動きがまさに…」コインを持った手で身振り手振りでバイオハザードのゲームのシューティングのかっこうをしていたらコインが指からすべり落ちた。
 大桐は大笑いしていた。
 足元で十円玉の表が出ていた。「表が出たか」松仲はそんなことをつぶやいた。しかし、大桐が不思議そうな顔で、松仲を見た。
「表? どっちが表っていった?」
「え? この10ってなってるほうですよ。とうぜんでしょう」
 大桐は、呆れた顔でため息をはいた。
「いつから日本国の硬貨の裏表の判別ができなくなったのかね。いまどきの若いものたちはどこかで学ぶ瞬間はなかったのか?」
「どういうことですか?」松仲はなにかわるいことをしたかのように責められている。
「いいか。10ってなってるほうが、裏面なんだよ。デザインが描かれているほうが表だ」
 松仲は度肝を抜かれたかのように驚いていた。「てことは、こっちの平等院鳳凰堂が表面ですか?」
 大桐は深くうなずいた。
 松仲は、いまになってその真実にむかいあった。
「補足してやるけど」大桐はつづける。「5円玉だけは、年号と日本国とデザインされたほうが裏面だ」
 ほんとうの裏か表か、その知恵がなかったがための歯車の狂い。それは真実にたどり着けないことにつながる。
「いや、勘違いしていただけだ」松仲は自分の否を認めないようにいった。
「おまえいま自分がどっちが裏表かまちがっていただろ」大桐の指摘は手厳しく、正しいことを指し示すのに揺るぎはない。
「ちがいますよ。私がまちがっていたのはたしかですけど、事件のことです」松仲は脳裏に電流が走ったという。
「なにがだ?」
「大桐さん、思い浮かんだことが…、いえ、かんちがいしていたことがありました。違和感を持ち続けていたのに、なぜ振り返らなかったのか…バカでした」松仲は静かにぼやいた。
「なんだ、ゾンビのことか?」
「いえ、野々原事件のことです。あたりまえの捜査をしていたのかもしれないということです。違和感はずっと感じていたのに、ほんとバカでした」
 大桐は浮かない顔をしている。ことばを失ったかのように相棒の顔をのぞいていた。「どういうことだ?」
「警官が着いたときどういう状況かを、自分たちで確認していなかった。もっとも初動捜査は警官の現場検証を聴取し、そこから刑事であるわれわれがしっかりと同じ捜査をする。でもそのとき簡単な事件だ。だれもがそういう考えで、その考えが伝染していった。なんらかの油断か、私ですら着眼点を見失っていた。ですが、なにかつっかえていたなにかがあったんです。まるで歯のあいだに肉が挟まってずっと取れないような感じで…」
 大桐は冷静にそれに応じた。「歯、磨けよ」
「そういうことではなくて、感覚というか、感性というか、大桐さんは生粋の頭の硬いひとだからわからないかもしれないけど…」
「はいはい、おまえにしかわからない感覚だろ…わかってるって」大桐は松仲の刑事としての勘を信じていた。意外とその感が的を射ているからだった。いくつもの事件の糸口をその勘から手繰り寄せていたからだ。それを相棒として真横で見て聴いていたから信じざるをえなくなっていた。
「現場というのは、出来事が起きたあとのこと、ということです」
「そうだな、だからおれたち刑事がいる」大桐はあたりまえだとうなずいた。
「ですからそこが目に見えている光景でありながら、事実はそうではないかもしれないということです」
「盲点があったってことか?」
「ええ、そうですね。つまり床に倒れているのは、被害者。姿を消したのは加害者」
 大桐がつづけて話す。「とうぜんの図式だと思うが…」
「いえ、もしかすると、ほんとうは逆だったのかもしれない」
「逆?」
「いきましょう」
 ふたりは覆面パトカーに乗り込み、松仲の運転でエンジンをかけ走行していく。
「どこにいくんだ? 俺さ、目的地きかないと気がすまない性質なんだよね」大桐は脅すように、狭い車内で咆哮をあげていた。
「もう」嫌気がさすように、自分の考えがまとまっているさなかなため、たどり着くまでにプロットを完成させよう。そう思っていた松仲だったが、しかたなく折れた。「病院です」
「病院? もしかして”被害者”のか?」
 松仲はニヤリと勝ち誇ったかのように微笑みを浮かべる。
「いえ、”加害者がいる病院です”」

 

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