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肩たたきケン

   

福田 健二は、昔から「肩叩き券」を武器にしてきた。親へのプレゼントは全て肩叩き券で通してきたし、肩叩きがきっかけで大学にも通うことができたほどだ。健二の体格が並外れて大きく、しかも力強かったことが原因だが、ともあれ健二は、会社でも「肩叩きケン」と呼ばれ親しまれてきた。

そんな健二にある日、社長からひとつの命令が下される。健二に与えられた任務は、確かに肩叩きには違いなかったのだが……

 

「もうっ、何でこうなるのよっ。今日はこれから京子と遊ぶ予定だったってのに!」
 福田 健二は、後ろから聞こえてくる娘の真琴の金切り声に、頬が緩むのを抑えることができなかった。
 少女の小さな手が、健二の巨大と言ってもいいほどの肩を、ぽこぽこと叩く。
 まったく効かないが、微弱な振動がこそばゆくて、悪い気分ではない。
「ははは。まだ約束したわけじゃないんだろう? じゃあ付き合ってもらうよ、六枚分。一時間ぐらい、父親とコミュニケーション取るぐらいの余裕がなくちゃ、モテないぞ」
「余計なお世話よっ。ああ、もう、手がダルいっ。……何よ、隆美の奴、誕生日の贈り物なんて楽勝だって言ってたのに、これだったら食事にでも誘った方がマシだったわ」
 ぼやく真琴の言葉を聞いて、食事の準備をしていた健二の妻もくすりと笑う。
 多分「やっぱり親子は似るものね」などと思っているのだろう。
 実際健二にとって、今日の誕生日に娘から贈られたプレゼント、肩叩き券は、きわめて見慣れたものだった。
 健二自身、物心付いた頃から、親の誕生日には欠かさず肩叩き券を贈り、何か家事を押し付けられそうになった時には決まって、チケットを「乱発」することで面倒な仕事を回避してきたのである。 そんな無茶ができたのは、健二の体格が人並み外れて良く、さらに手首から先の力が異常に強かったことが要因だ。
 どうやら健二の肩叩きはプロ以上に効くらしく、家事に使うよりも優先順位が高くなったというわけだ。
 中学校に通うようになってからも、肩叩きのスキルに助けられる日々は続いた。
 不良系生徒の暴力が吹き荒れる学校内で、性格のおとなしい健二は真っ先に的にされた。
 なまじ体格が良かったために、かえって「壊れない標的」として殴られ蹴られる日々が続いた。
 反撃をしようにも通常の運動音痴というレベルを超えて動きが鈍い上に距離感を掴むのが下手となれば一発を食らわせることもできず、かなり辛い日々を送っていた。
 だが健二は、徹底的にやられる対象には入ることはなかった。
 これも肩叩きのスキルのためである。
 喧嘩などで体を使う不良たちにとって、良く効く健二の肩叩きスキルは代えがたいものがあったらしく、登校拒否になられては困るといった事情がプラスに作用した。
 肩凝りに悩む生徒にもやってあげることで、一般生徒との仲も良くなり、内申書にも極めて良い結果をもたらした。
 さらには大学入試も肩叩きの一芸推薦でパスし、その学歴を利してきっちりとした就職もできた。つまり、肩叩きが健二の将来を開いたのである。
「ふふふ、そう、もっと心を込めるんだよ。肩叩きだって、何にも負けないだけの助けになることだってあるんだから」
 などと言いながら、健二は傍らのビール瓶の栓を指でねじ開け、液体をグラスに注いだ。
 四十五歳の誕生日と課長昇進を同時に祝うのだから、少々飲みすぎても妻から小言を言われることはあるまい、と、心底リラックスした様子で、時間が過ぎるのを楽しんでいた。

 

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