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ミスターステンレス

   

独立系TV局の記者である西川 昭吾は、戦後の一時期、際立った成績を上げた陸上チーム、「平和陸上クラブ」と、チームのエースである「幻のアスリート」宮野 順三の足跡を辿っていた。

宮野は、年を経るにしたがって様々な競技で頭角を現すようになった異色の選手であり、オリンピックでの活躍も期待されたが、突如、表舞台から姿を消してしまったのだ。

宮野の旧友、谷川から申し出があり、取材は一挙に進んだ。谷川の口から出てきたのは、一見、地方の弱小チームである「平和陸上クラブ」の正体と、「ミスターステンレス」と言われた宮野の実像だった。

衝撃を受ける西川は、さらに谷川の口から、宮野の現在の居場所についての情報を得る。だがそこは、本来人が住んでいないはずの「無人区画」だった……

 

「特集?」
 俺が聞き返すと、取材部課長の林田はゆっくりと頷いた。
「そうだ。今年は世界的な大会が目白押しだからな。ウチもその波に乗る。ただ、現役組じゃダメだ。他社がツバをつけていない過去の名選手に焦点を当てて、独自性を出していくんだ」
 林田は、古びた何枚かの紙の束を机の上に置いた。
 随分年季の入った新聞紙や雑誌の紙だ。若く精悍なアスリート、と言うよりも「運動選手」と形容した方がしっくりくるような古風な男たちが、引き締まった表情で写真に収まっている。
「平和陸上クラブ。戦後の一時期、宮野って選手を中心に、国内で旋風を巻き起こしたチームらしい。オリンピックでも大活躍が期待されたが、突如として団体は解散、選手たちは表舞台に出てくることは二度となかったという話だ。言うなら伝説のチームってとこだな。第一回の特集では彼らのその後を取り上げたい。上から直々の依頼があってね」
「社長から話が?」
「いや、五代前の会長からだ。まったく、あの人の言うことには誰も逆らえん。まあ、どこの有力組織も大体そうなんだろう。『長寿玉』が効いてるからな」
 事情を述べてから林田はため息をついた。
 俗に言う「長寿物質」、単に老化のスピードを遅らせるのではなく、生命体に存在する、寿命を司るテロメアを延長させる物質の発見によって、一部の人間は老衰すら恐れなくなった。
 蓄積に大変な手間がかかり、飴玉一粒ほどの大きさの「長寿玉」一粒でも最低五万円はするので、百万円かけても一歳若返られるかどうかという効率の悪さだから、その恩恵にあずかれるのは権力者や富豪たちに限られているのが現状だが、金を持つ者にとっては十分過ぎる条件だった。
 我が社の黒幕たちも貯め込んできた金の過半を「長寿玉」に費やし、時の経過を恐れることなく会社を牛耳り続けている。
「だから俺らは、そうした人のご希望に沿うような番組を作り続けなければならないと。百年後も同じことの特集をしていそうですね。まあ、番組をやるのは俺たちじゃないんでしょうけど」
 俺が愚痴をこぼすと、林田は苦笑いをしてみせた。
「まあ、そうぼやくな。たとえ連中のご機嫌取りだって言っても、この手の映像を流すよりはナンボかマシってもんだろう」
 傍らのTVでは、全身をプレートに覆われた歩兵たちが銃を手に駆けている。
 強化プラスチック製のマスクを被っているので彼らの表情を読み取ることはできない。
 昔懐かしい実弾銃の音がバリバリと響くと、前を走っていた兵士たちのうち何人かが倒れ伏せる。
 しかし倒れた兵たちはすぐさま体勢を立て直し、再び走り出していく。
 撃たれるとプレートの下の衣服から瞬時に止血ジェルが出てくる上、背負っているバックパックから人工血液の供給が行われるから、少々のことでは死には至らない。
 かつて戦死の要因は出血のショックと失血によるものだとされてきたらしいが、今ではそうした原因で即死することはない。
 体内のどこかに完全人工知能チップを入れておけば、たとえ頭を吹き飛ばされても記憶と身体機能を保ち続けることができる。
 無人戦闘ユニットが全盛で、本来とうの昔に動物と同じように戦場で用いられなくなっているはずの人間が戦場で生き残っているのは、様々な技術革新の恩恵を受けることができる立場だったことによる。

 

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