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歴史・時代

薔薇と毒薬 20

   

 マリエットは首を振った。
「……だって、もう、諦めたつもりでいたのに」
「諦めないでくれ。一緒に逃げよう、マリエット。君が行かないなら僕も行かない」
 抱きしめられた腕に、更に力が籠もった。

 

 赤い絨毯を敷き詰めた廊下を駆けるマリエットを、すれ違う者は皆驚いて見ていたが、今はそれに頓着している場合ではなかった。
 人にぶつかりそうになりながら広間の中を駆け抜け、バルコニーへと向かう。ファナが言ったとおり、ノイッシュはまだそこにいて、手すりに身を預けてぼんやりと外を見ている。
「ノイッシュ王子!」
 扉を開けてバルコニーに出て、マリエットは叫んだ。驚いてノイッシュが振り返る。
「早く、ここから、逃げて……」
 ここまで全力で走ってきたせいか、息が切れて言葉が続かない。手すりを掴んで荒い息を吐く整えるマリエットに、ノイッシュが近づいてきた。マリエットは王子を見あげて、必死に訴える。
「グレイが、あなたを狙っているの。彼もギルドのリアンドールよ。ここにいたら殺されるわ、だから、早く……」
 そう言いながら涙が出てくる。今更信頼などされるはずもない自分の言葉で、どうすれば彼の身に迫る危機を伝え、ここから逃がせるかと。
「あたしの言うことなんて信じられないってわかってる、でもお願い……」
 彼に嫌われてから消えようと思いひどいことを言った。その後悔に、ノイッシュを見あげる視界が涙でにじむ。あんなことをしなければ、もしかしたら少しは話を聞いてもらえたかも知れないのに。
 けれどノイッシュは、マリエットの懸念をよそに、あっさり頷いた。
「わかった」
 拒絶する様子などまったく見せずにマリエットの言葉を受け入れる、そんなノイッシュにマリエットは驚いた。
「え……」

 

-歴史・時代


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