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夢で逢いましょう<4>邯鄲の夢

   

 邯鄲に来た科挙受験生の盧生は、ほんの短い昼寝の間に、栄枯盛衰の一生を夢で見てしまった。(中国の故事)

 

 私は、夢ではないか、と思った。
 応接室へ入ってきた編集長は、信じられないくらいの美人であったのだ。
 髪は漆黒で、さらりと長い。
 目鼻立ちは、まるでギリシャ彫刻である。
 瞳は瑠璃色。
 そして、体型も凄い。
 ブラウスから胸が盛り上がっている。
 ヒップの張りのため、スカートは破れそうだ。
 腰は、しっかりと細い。
 その完璧な女性が、完璧な動作で名刺を出し、私の前に置いた。
「編集長のオードリー真木です」
 声も素敵だ。
 私は、挨拶も忘れて編集長に見とれていた。
 一体、この女性は何者なのだろうか?
 編集長は苦笑した。
「白系ロシア、インド、フィンランド、それに日本の混血なんです。これで説明になりましたかしら。よろしかったら、ビジネスの話に入りません?」
「あ、ど、どうも……」
 私は、情けない返事をし、メモリーカードを取り出した。
「え、ええと……、何はともあれ、次の原稿が出来ましたので、持ってきました」
 ここは、都心にある、新築された高層ビルの最上階である。
 時代の最先端を駆ける企業が、多数、居を構えているビルなのだ。
 最上階を占めるのは、メディア関係で世界をリードする創幻出版。
 そして、この部屋は、創幻出版の応接室なのである。
 私は小説家。
 創幻出版から小説を出しているのだ。
 なにせインターネットの時代であるから、これまでは、ネットを通してすべてのやりとりをしてきた。
 編集長の顔も、見たことはなかった。
 それが突然、編集長から呼び出しがかかったのである。
「玉稿、いただきます」
 編集長は、丁寧に頭を下げてメモリーカードを受け取った。
 そして、私を見た。
 ブラウスに洒落たビジネススーツを見事に着こなした凄い美人が私を見ているのだ。
 ただ、顔は真顔。
 ビジネスの顔であった。
「いい話と悪い話があります」
「はぁ」と、間抜けな相づちを打つ。
「先ず悪い話から」
 私は、神妙に話を聞く姿勢になった。

 

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