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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

8月のエンドロール 13

   

子どもたちが決起するなか、当事者の姫子は区議会に立候補し、さらなる権力を手に入れようとしていた。そして、役立たずの勇次の処分を決める。一方、比野県警で姫子立件を推し進める家光は解決の糸口を見いだす。だが姫子の妨害が入り、警視庁に戻るよう告げられる――
『采配の時間』配信

 

采配の時間

 小谷 姫子は、人を捻り殺すときがもっとも美しい悪女だった。
 蠱惑的にすぼめた唇から煙草の煙を吐き出し、姫子は満足気に唇を捻った。都内自宅のタワーマンションから望む見慣れた夜景が、今晩は宝石箱を広げたように見えた。
 まさしく彼女は、これから権力と金という宝石を手にするのだ。
 姫子は政治家になる。
 古雅 劉生と通じている区議の根回しによって区議会選出馬が正式に決定した。告示日までまだ日にちがあるが、明日から選挙に向けて準備をはじめる。現在、比野県警に設置されている捜査本部も古雅の圧力で一両日中には解散させられる予定だ。
 もう誰にも姫子は捕まえられない。あとは高く、高く飛ぶだけだ。
 あまたいるツテとコネのなかで古雅に目をつけたのは偶然だったが、かつて政界に進出していただけのことはあって見事な働きぶりだった。これもひとえにマリという駒が貢ぎ物として機能してくれたからだ。
 マリは古雅の死んだ娘・麻亜子におぼろげながら似ているという程度だ。だが、〝整えて〟やれば、どうとでもなる。危険ドラッグと売春、堕胎を繰り返した中古品のマリを使ったのは情事に慣れているというだけだ。マリには、たっぷり古雅を満足させてもらえば、死のうと生きようと構わない。そのために切ったカードだ。
 姫子は手に持った瀟洒な灰皿に灰を落とすと、唇の端に挟んだ。そのまま、深々と吸い、ゆっくりと吐く。煙草の煙が、室内に常備してある空気清浄機に吸い込まれ、リビングにはにおいの一欠片も残らない。
 ワンルームマンションがすっぽり入ってしまうほど広々したリビングを独占した姫子は、経営する店からの電話をそつなく処理しながら、これからのことを考えていた。
 仮にマリが駄目になっても店にキープしてある同年代の少女をあてがえば、古雅は満足するだろう。もしかしたら、そちらの方が初心っぽくて古雅のお気に召すかもしれない。ともあれ、古雅には今後も性の供給を行っていれば万事上手くいく。
 華奢な腕にはめられた腕時計を見て、そろそろか、と呟いた姫子はシックな赤いソファに腰を落ち着けた。午後八時。スマホに記載された権力者たちの一覧から古雅 劉生の名をタップした。煙草は片手に挟んだままだ。
 たっぷり三コールのあと、執事の前園という男が、電話口に出た。前園は主人の古雅に忠実だったが、姫子に言わせれば愚鈍な男であった。
 だが、そんなことはまったくおくびに出さず、しずしずと切り出した。

 

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