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ノンジャンル

桜援花

   

学生時代、友人に裏切られた雪弥は、それ以来、人を信じる事が出来なくなった。
そんな雪弥を仲間たちは根気強く見守り、雪弥も彼らに心を開き始めていたが、その矢先、町を大地震が襲う。

家屋は倒壊、道路も寸断、雪弥とその仲間たちは、完全に外界から遮断された世界に取り残された。

生きていくため、それぞれがそれぞれに、しなければならない事を必死で行う中、雪弥だけはなにもしようとしない。
ゲーム機だけを相手に、ただだらだらと毎日を過ごす。

かつて雪弥を裏切った事のある浩太郎は、いつか、雪弥もまた動き出してくれると信じ、そんな彼を世話し続けていた。

そんな中、再び大きな揺れが襲う……。

※このお話は、2011,3,11のあとに書きましたが、当時の被災者の心情などを思い、公開しなかった作品です。
今回、1/17を前に、思うところあり、公開する事にいたしました。
軽いラノベ調の作品ですが、お納めください。
※なお、作中に登場する呼称等は、実在の人名、地名、組織とはなんの関係もありません。

 

「お、やりっ! 行け、よし、よぉし!」

電気もついていない薄暗い部屋の中で、雪弥(ゆきや)は小さなゲーム機を片手に一人、エキサイトしていた。
浩太郎(こうたろう)と雪弥の住んでいる狭い部屋は、この前の地震で天井の梁が落ち、電気系統がイカレタらしく、明かりがつかなくなった。
別に停電しているという訳ではない、その証拠にコンセント部分には電気が来ているので、雪弥はそこから電源を取り、ゲームに興じているのだ。
しかし、若者ならほかにする事はあるだろう、あっちもこっちも停電や断水、続く余震で大人も子どもも限界だ。
天井が落ちたとはいえ、これといった被害も受けなかった自分たちには、なにか出来る事があるんじゃないかと思うのだが、そんな事にはまるで興味がなさそうに、雪弥は携帯ゲームに興じている。
買出しに行くのも、食事の用意をするのも、水の確保も全部浩太郎任せで、なにもしようとしない雪弥を見ていると、さすがに人のいい浩太郎もムシャクシャとした。

「雪弥! お前な、こんな時にゲームなんかしてて恥ずかしいと思わんか? 少しはなにかしようとか考えろよ」
「あ? んな事言ったって、俺になにが出来るよ? なんも出来ねえ癖に口だけ動かしてなんになんだ」
「けどな! なんか出来るだろ、ただそこに座ってたって……」
「無駄に動けば腹が減る、エネルギーも消費する、俺はなんも出来んからな、ここで動かんのが一番の貢献やろ、だいいち、対戦相手が喜んどるわ、これも立派なボランティアやないんか?」

雪弥のやっているゲームはオンラインで、今もどこかの誰かと繋がってるらしい。
その気になればそこでの対戦相手と会話も出来るし、GPS情報も送れるので、お互い何処にいるのかも確認できる。
一昔前のバーチャルな関係だけに留まらず、今やリアルな友人として付き合う事も出来るのだ。
雪弥は床に置きっぱなしになっているピース缶から、煙草を一本取り出して、火を点けながら、またゲーム機のボタンを操作する。時々紫煙を追うその視線は、なぜかとても寂しそうに見えた。

 

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