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歴史・時代

薔薇と毒薬 21

   

「裏切るのか、マリエット」
 淡々としたグレイの声。その声は底冷えするほどにつめたかった。
「グレイ」
「言った筈だ。おまえがやらぬのなら私が王子を殺すと。さあ、こちらへ来い」

 

 思わず足を止めたマリエットに、ノイッシュが少し誇らしげに言った。
「変わったのわかるかい? ここからは僕が掘ったんだ」
「そうなの」
 マリエットはおそるおそる手を伸ばした。少し湿った土の感触が指先にふれる。
「やっとマリエットに見てもらえた」
「見えないわ」
 マリエットが思わずそう答えると、聞こえてきた声は今度は妙に悔しげだった。
「……ランプでも持ってくればよかった」
 その会話に、暗闇を進む怖さと、グレイがどこかで襲ってくるかも知れないという懸念とで張り詰めていた気持ちがゆるんで、マリエットは少し笑った。
 すると、その声を聞いてノイッシュが言う。
「やっと笑った」
「え?」
「君は、笑っているのがいい」
 以前も聞いたその言葉に、マリエットの胸がきゅっと痛んだ。
「……ねえ、どうして、あなたはあたしに、こんな」
「ん?」
「どうしてやさしくしてくれるの? どうしてあなたに危害を加えようとしたあたしを、こんなに簡単にゆるせるの……?」
 マリエットにはそれがどうしてもわからなかった。もし立場が逆だったら、自分は彼をこれほど簡単にゆるし、信用することが出来ただろうか。
「そうだな……。昔、一度だけ旅に出たことがあったって話をしたよね」
「ええ」
「そのときに、グレーベの街を通ったんだ」
「グレーベ?」
 自分にはあまりにも馴染みのあるその地名が彼の口から出てきたことに、マリエットは驚いた。
「うん。御者に、ここはスラムだから外は見るなと言われたんだ。醜いものしかない街だから、と」
「…………」
 それはまったくの事実で、その様子をあまりにもよく知っているマリエットには返す言葉がなかった。それでも自分が暮らしていた街がそのように言われていたのだと知るのは、少し辛い。

 

-歴史・時代


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