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ラブストーリー

なりあがる! 1

   

 文房具会社で企画開発部で開発担当をしていた馬駒 貴公(まごま たかおみ28歳)は、同じ会社の営業課の社員の横領事件を機に、部署を移動させられる。企画開発だけを生き甲斐にしてきた馬駒はこれに反発。しかし、人事部長は命ずる。移動するか解雇となるかどちらかしかないと。
 そして、馬駒は悔しさを腹に据えたまま、移動する。が、その移動先は地下の倉庫番だった。

 そこでどうでもいい仕事を淡々とする。しかし、元企画開発部部長松林は、馬駒の人生を危ぶんで、説得に応じる。事実上企画開発部は解散となり、松林は経理課の補佐という幽霊役職に就いて、書類の判子を押すだけの毎日を過ごしていた。
 馬駒を解雇にできなければ松林が代わりに辞めるか、と人事部長矢飼は脅す。
 松林に説得させられた馬駒は人生を見つめる。自分のこれまでの人生と、これからの人生、路頭に迷う樹海のなかでどう開拓すればいいか、苦悩していた。
 そんなとき、一人の女が馬駒の前に現れた。
「馬駒さんですか、ですよね?」
 救いの女神か、それともさらなる地獄へと突き落とすために現れた女か…
 馬駒の人生はどうなる!

 

 馬駒 貴公(まごま たかおみ)28歳は大学を卒業して新卒で入社した会社をクビになった。だが、自ら退職した。下劣な会社の方針に愛想を尽かしたのだ。かっこつけ過ぎたかもしれない。大人しくいうことを聞いて仕事に勤しむべきところ、やはり独自の個性が前に出てしまうのだ。
 追い込まれると、ひとというのはいくつもの選択肢があるなかで、一番誤った判断を選んでしまうものだ。

 企画開発部に在籍していた馬駒は、新商品を作るためのその発想と技術と日々勉強が要求されるところを、夢中になって取り組む姿勢で職務をまっとうしていた。
 本来、ここまで好きなことだからといって本気でいても、もう今日はいいや、明日にしよう、と気持ちを置いてしまうもの。しかし、馬駒は違った。ありえないほどの集中力で新商品を作るための発想を具現化する算段の企画書を作成していく。どれもこれも、馬駒はクリアしている。
 そんなとき、差し迫った話しが会社内でこだまのように響きあっていた。それは馬駒も対象であるということだ。
 有能な人材であったが、企画新商品が部長に白紙にされた。営業課の職員が横領したという事実の報道に、新商品の開発なんかに時間をとる暇はない。日々マスコミや警察関係者に話しを聴取されている。上の者が動けないいじょう、下がどれだけ職務に精をだしたところで商品化の現実はない。そして、ついには株価暴落、業績も昨年より悪化していたおり、この事実だ。
 このままでは倒産の危機にさらされることになる。
 そこで、大幅なリストラが関与された。馬駒は、とうぜんリストラされることはないと高をくくっていた。もしリストラの辞令になっても、断固拒否し戦うつもりだったが、役員側の方が上手だった。さすが長い社会に踏ん反り座するその地位という立場は、まだまだ未熟な平社員風情が対抗しうるすべなどなかった。
 部署移動がまずは第一段階にあった。

 馬駒は、「どこにいっても仕事ができればそれでいい。また開発のチャンスはある」と豪語していた。しかし、その直後から運気は右下がりで下降に下降していった。
 宣伝部に移動になった。だが、やっぱり能力的と個性と性格が適性を欠いて、宣伝部部長から低脳の烙印を押された。初めての挫折というものを知った。どれだけの屈辱を浴びせられたか。ほかの社員からは白い目で見られ、なにもできないじゃん、あいつ、とマニュアルのファイルをくちもとを隠しながら罵っているのが、その目から感じ取れていた。
 馬駒は奥歯を噛み締め、こぶしは硬く握り締められていた。感情はもはや憤りを通り越し、罵られた分の倍でぶつけてやろうと沸き立っていた。だが、それはしなかった。飼い犬の分際で上に逆らったら最後だ、路頭に迷うか、死か、そのどちらかだ、と宣伝部部長は耳打ちした。
 クビになること、それはほぼ死を宣告されたにひとしいものだ。商品開発しか能力を発揮できない馬駒は、ほかの会社にいってどんな仕事ができるかわからない見習い以下に、乗り切れるわけがない。なぜなら、ここ宣伝部の仕事もろくにできていないのだからだ。空回り、やる気がすべて車軸のずれた歯車のように、安定感がなかった。
 すぐにふたたび移動命令。

 人事部長から「そんなに、商品が好きならうってつけの部署がある。そこで腕を振るうといい」
 馬駒は、胸躍った。最初からそっちに移動してくれ、とひと言いってやりたいのを我慢した。これで、嘲笑される日々とはお別れだ。思いのままに自分の個性を振るうことができる。自信が勝っていた。
 だが、その部署は、もともといた企画開発部だった。
「なーなんだよ。もどってくるなら、むりに宣伝部に異動させなくてもよかったのに」
 企画開発部に返り咲くことができる。聞いた話しでは、自主退職したものがかなりいたようで、人手が足りないという噂。会社内部にいれば、順繰り巡って希望がとおるときが訪れる、と信じていた。いやいやな仕事でも、忍耐で乗り切れば、こういう好機が訪れるのだ。馬駒は笑みに満ちていた。
「ここの企画開発部が作った商品を地下に運んでくれ」
 人事部長はなにをいっているのか、わからなかった。「どういうことですか?」馬駒は意味を問う。
「配属先は、地下にある備品室の管理だ。これまで開発した商品が山のように、そして壁のように積まれている倉庫だ。やりがいがあるだろ」
 人事部長は嘲るように言った。
「お願いします。企画開発部へもどしてください」馬駒はその場で頭を下げた。だが、どれだけの頭をさげても、それは認められない事実。「人手が足りないと聞いてます。ならわたしをもどしてください。給料も安くてもかまわない。頼みますよ、やりたいことをやりたいんですよ!」
 膝をついてすがるように人事部長の真新しいスーツのスラックスにしがみつく。
「ダメだ、企画開発はもうしない。これからわが社は方針を変えていく。もう商品を開発することはない。つまりが、人手が足りなくてもかまわない。なぜなら、企画開発部は解散だ」
 囁きかけるように、低音の声が馬駒の脳内を破壊していく。人事部長は、静かに見下ろしながら言った。
「企画開発部がなくなる…」ちからなく放心状態になってしまった馬駒。その場で両手を床について崩れるからだをささえるも、その場でうつ伏せのまま泣き叫びたいほどの悔しさが込み上げた。

 

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