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ノンジャンル

確かな目利きを

   

某所に二人の男が立っていた。一人は貴重品の目利きに関しては業界に並ぶものなしを自称する青年、安岡、もう一人はたまたま近くを歩いていた初老の男性、峰岸。

老紳士はこの二人に、二つの指輪を見せる。そして、良かった方を指差してくれと指示を下した。

だが目利き対決というにはあまりにも二つの指輪の出来栄えは違っていた。左側の指輪は誰がどう見ても高級なダイヤ、そして右側の指輪は、大きいがどこにでもありそうな石を、サイコロのような立方体に仕立てただけの指輪である。

当然のように安岡は、左側の指輪を選ぶのだが……

 

「多忙の中、呼び立てて済まなかったな、安岡よ」
 がらんとした室内に、貫禄のある老紳士の声が響いた。
 食料品はおろか調度品すらない、清潔で殺風景な室内には、小さな机だけがあり、机の上には二つの指輪が置かれていた。
 その指輪を囲むようにして、三人の男が立っている。
 老紳士と、老紳士から安岡と呼ばれた男は西洋流の正装で固めているが、おどおどしながら立っている初老の男だけは、ワイシャツによれよれの黒ズボン姿である。
「いいえ。旦那様のお呼びとあらばどこででも。目利きのご依頼でしょう?」
 安岡は、自分よりずっと年上の老紳士に向けて、ぎらついた笑みを隠そうともしなかった。
 態度にも、自信がみなぎっている。
 歳は若いが、いかにも熟達したプロの雰囲気を匂わせている。
「そうだ。君に見比べて欲しいものがある。今ここに並べられている二つの指輪のどちらが良いものかを決めて貰いたいのだ」
 老紳士は穏やかな物腰を崩さず応じたが、安岡の顔には露骨に嘲笑の色が滲み出た。そして、その態度は声にも表れる。
「ご冗談を、と、旦那様以外の人間相手なら、迷わず申し上げているところであります。プロの目が必要とも思えませんが、いいでしょう。私も仕事でここに来ていますから」
「機器の類は使わないのか」
「それこそ、ご冗談を、ですよ。わざわざ車まで戻るのも面倒ですし、私が間違えるわけがない」
 きゅっと口角を上げて白い歯を見せた安岡に、老紳士は少し目を細めたようだった。
 しかし、その表情の変化はわずかで、どんな感情の変化があったかまでは、見る者には分からない。
「峰岸さん、でしたな。この度は大変なわがままを申し上げてしまいました。もう数分で終わる用ですので、どうかお付き合い願えませんでしょうか」
 やり取りを終えてから老紳士は、安岡の隣でおどおどしている男性に向き直った。
 その声は、安岡と話している時よりもさらに穏やかで、聞いている者を不快にさせる要素は一片も含まれていない。
「い、いえっ、まったく問題ありません。することがないので、散歩をしていただけですから。いや、娘とうまくやれてるのはいいんですが、最近の話題にはなかなかついていけませんで」
「年頃の子供を持つと、なかなか大変ですな。分かります」
 反射的に恐縮し切った声を出した峰岸に、老紳士は笑い混じりの言葉で応じ、そして再び表情を平静に戻す。
 そして、本題を告げた。

 

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