幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

サクリファイス クロニクル編17

   

三百年振りにアーロンとクレメンティーナは、歴史の大きな波となっていた。
偽りの生活を続けるシャルルに、二人がお説教をするのだが。

サクリファイスと呼ばれる怪物を描いた、オカルトゴシックダークファンタジー!

 

 僕は、ロザリーナと共に階段を降り、アーロン達の待つ部屋へと向かった。そこでは、手土産に持参したというワインを振舞う準備を、クレメンティーナが行っていた。
 アーロンは、ロザリーナの姿を見ると、嬉しそうに立ち上がり歓喜の声を上げた。
「なんて、素敵なマドモアゼルなんだ。否、マダムか。失礼した。マダム、ロザリーナ。シャルルのフィアンセで良かったかな。私は、アーロン・カノーヴィル。こっちは妻のクレメンティーナ・クリスティだ」
「初めまして、マダム、ロザリーナ。クレメンティーナ・クリスティよ。シャルルを面倒見てくれて、ありがとう」
「ロザリーナ・デ・ラ・ロサ。お目にかかれて光栄ですわ。フィアンセだなんて、勿体無いですわ」
「何も、照れなくてもいい! 話が山程あるんだ。今夜は寝られないと思ってくれよ」
 笑いながらアーロンは、ロザリーナの為に椅子を引いて彼女を座らせると、ワインのコルクを抜いた。
「さあ、これを飲んでみておくれ」
 随分、自慢のワインらしい。高級ワイン独特の品のある香りが、室内にいた四人の鼻腔を満たした。
「マダム、ロザリーナは、シャルルから我々の事を聞いているかい?」
 アーロンが尋ねた。
「えぇ。少しですけど。なんでも、シャルルの親愛なる友人だとか」
 ロザリーナが、答えた。
「それだけ?」
 クレメンティーナが、問うた。
「えぇ。シャルルは、あまり自分の事を話してくれないので」
 クレメンティーナが険しい表情で、僕の顔を見つめた。
「そうかい! いい機会だ。マダム、ロザリーナ、我々の話をたっぷり聞いておくれ」
「喜んで」
 アーロンは先ず、自分達が今置かれている状況について説明をした。これは、僕も興味津々であった。
 アーロンは、現在サン・ジェルマンとの仮の名を名乗り、赤い外套をシンボルにナポレオンと言う男の側近として働いているらしい。ナポレオンは統領の称号を持つ軍人だそうだ。アーロン曰く、指揮官としての才能が高く、いずれは皇帝にまで成り上がるのではと期待しているそう。
 エジプトでの、不思議な体験も語ってくれた。ナポレオンは、古代文明の発祥であるエジプトの神秘にとても興味を持っていて、167名の学者を同行させた。そして、彼は一人、ピラミッド内で一夜を過ごしたそうだ。ピラミッドから出てきたナポレオンは死人の様な顔をし、未来の幻を見た。と繰り返し話したという。
「人間が、足を踏み入れてはいけない世界もあるんだよ」
 アーロンは、哂って言った。そして、僕にとって最も避けたかった話題を始めた。
「マダム、ロザリーナは、こういった神秘的な現象は信じるかい? 例えば、不死身の人間の話などはどうかな?」
 ロザリーナは、答えた。
「ヴァインパイアやゾンビかしら。そうね、恐ろしいから信じたくはないけれど。でも、それ以上に私が船から放り出されても、まだこうして生きている事実に比べれば、信頼性のある話かも知れません」
 アーロンが、笑った。
「君は、面白いことを言うね! あぁ、君の話はシャルルから聞いているよ。惚気話としてもね。私は、不死身の人間というものを知っているのだ。聞きたいかい?」
 僕は、席を立った。
「シャルル」
 クレメンティーナが、僕を呼び止めた。
「……ワインだけじゃ、寂しいと思って」
 クレメンティーナの、逃げるなと言う視線が、背中に突き刺さり、僕は咄嗟に誤魔化した。
「シャルル、チーズとハムがあったはずよ」
 ロザリーナの言葉に、僕は頷いた。
 僕は、わざと時間を掛けてチーズとハムを皿に盛った。必要がないくらい、綺麗に並べた。それを持って席に戻ると、ロザリーナは身を乗り出すようにしてアーロンの話に聞き入っていた。
「完璧でもあり、完璧でもない錬金術による人間。本当に存在するからこそ、薔薇十字団は対部隊を設立した。じゃぁ、ヴァンパイアもゾンビも、出鱈目なのかしら」
「否、もしかしたら我々が知らないだけで、ヴァインパイアに対する部隊も存在するのかも知れない」
「まあ」
 サクリファイスの説明は終わったようだ。流石に、ロザリーナが既にサクリファイスであるという真実や、僕自身がサクリファイスであるという真実まで、アーロンは話さずにいてくれたようだ。安心した反面、僕の全身に得体の知れない恐怖が走った。
「さあ、マダム、ロザリーナ。夜更けまで、ありがとう。本当に楽しい時間だったよ。もう、休んでおくれ。少し、シャルルと話をしたいんだ。我々も、今夜はお邪魔しても構わないかい?」
「是非に。では、お言葉に甘えて、今夜は失礼いたします」
 ロザリーナは立ち上がり、一礼すると部屋に戻っていった。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


コメントを残す

おすすめ作品