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幻影草双紙67〜トイレの恐怖(前編)〜

   

 トイレの話です。
 食事時には、読まないよう、お願いします。

 

 
 岡田幸二を乗せた準急列車は、ひたすら線路を走り続けている。
 岡田幸二は、列車の振動に身を任せて、かすかに笑った。
 笑いたくなっても、仕方ないのだ。

 岡田幸二は、大正緑林大学医学部の準教授である。
 準教授になったばかりなのだ。
 まだ若い岡田幸二の準教授昇格が決まったとき、だれもが驚いた。
 そして同時に、なるほどな、と納得したのである。
 大学で準教授になるには、もちろんのこと、バカでは駄目である。
 しかし秀才だからといって、準教授になれるわけでもない。
 それなりの推薦がなければ、駄目なのである。
 しかも若くして準教授になるには、通り一遍の推薦では、無理である。
 岡田幸二の場合は、殿山教授が強力に推薦してくれたおかげで、準教授になれたのだ。
 殿山教授は、純粋の親切心から、岡田幸二を推薦したのではない。
 学部内の政治力学の戦略からである。
 岡田幸二を準教授にし、自分の子分として取り込むつもりなのだ。
 こうした人事を繰り返し、子分を増やし、次期学部長選挙に立候補する、という作戦であった。
 現在の学部長も、バカではない。
 殿山教授と同じくらい、もしくはそれ以上に、政治力学を熟知しているのだ。
 殿山教授の戦略は、十分に見通していた。
 出来ることなら、その戦略を阻止したい。
 しかし、準教授昇格への手続きは、規則に叶ったものであった。
 準教授昇格を、拒否することはできない。
 学部長は、しぶしぶと、昇格承認の書類に印を押したのである。
 その姿勢は、岡田幸二へ辞令を手渡すときにも、十分に現れていた。
 笑顔ではあったが、眼は笑っていなかったのである。
 そして、くどくどと、準教授たる者の姿勢を、説いたのであった。
 せめてものサポタージュであろう。
 くどくどと、ほとんど1時間くらい話をしたのである。
 それを簡単に、一言でいえば、破廉恥なことをするな、であった。
 現在の大学は、セクハラなどをいちばん恐れている。
 教員がセクハラなどをして、それが外部に漏れたら、大学の評判はガタ落ちとなるのだ。
 新進気鋭の医学部準教授が女子学生に抱きついた、などとなったら、週刊誌は大喜びであろう。
 岡田幸二も、もちろん、それは十分にわきまえていた。
 岡田幸二は、野心家ではあるが、だからといって、無法ではない。

 

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