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アンチエイジ・タブレット

   

フリーターの西口 俊也は、とにかく「将来」を大事にしたいと思っていた。しかし、歳を重ねるにつれ選択肢が減っていく現状はいかんともしがたく、会社での扱いに不満を募らせていた。

そんなある日、西口は、ジムの脱衣カゴに見慣れない雑誌が置かれているのを見つける。何の気なしに表紙をめくってみると、そこには、その名もズバリ、「アンチエイジ・タブレット」という薬剤の広告が掲載されていた……

 

「西口君、今日はもう上がっていいから。はい、日当だよ」
「うす。お疲れ様っす」
 主任からお金の入った封筒を受け取り、西口 俊也は仕事場を出て行く。
 六時間労働なので、さほど体は疲れていない。十分にトレーニングをこなしても、まだお釣りがくるだけの体力が残っている。
「五千円、か」
 西口は、トイレの個室で素早く日当をチェックした。
 一日の働きの代価としては安いが、時給換算なら千円近くになる。
 明日までのつなぎということを考えれば悪い支払いではない。もっとも、今ではすっかり会わなくなった西口の同級生たちの多くは、日給換算でこの三倍近い金を貰っているはずだが、西口には焦りはない。
 四十歳という年齢を目前にして、何を一番大事にすべきか、西口は自分なりの答えを既に出していた。
 行きつけのスポーツジムに入り、着替えを済ませた西口は、真っ先にランニングマシーンに向かう。
 体を温めるという意味でも脂肪を燃やすという意味でも、やはり走るという行為は最優先事項だ。
 少なくとも過度のウェイトトレーニングは、西口の目的にはそぐわない。
「ちわっす」
「西口さん、早いっすね」
 ジム仲間たちが声をかけてくるたび、西口は会釈で応じる。
 だが、足を止めたりすることはない。
 西口は決して愛想の良いタイプではないが、ジム内では一目置かれていた。
 結構な年齢であるにも関わらず、毎日欠かさず通い、妥協なくメニューをこなし続ける姿勢が好感されてのことだ。
(まったく……)
 だが、そうしたジムメイトたちからの視線が、西口にとっては気に入らない。
「歳の割に奮闘している」のではなく、「若い」と単純に思われなければ意味がない。
 何故なら、このジムに通う唯一の目的は、アンチエイジングなのだ。
 いや、ジムワークだけではない。
 仕事も私生活も、人生の目標全てを、肉体的に歳を取らないということに振り分けていた。
 それが「勝ち」への最短ルートだと認識していたからだ。

 

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