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ノンジャンル

モノクロビオラ 1章

   

灰色の世界に生きていても、その生き方が同じとは限らない。

無音の中で、彼女の心は明らかになっていった――。

 

 僕が小学校に入学すると同時に、街中のマンションから今住んでいる団地に引っ越してきた。念願のマイホームだと言って、両親が喜んでいたのを思い出す。完成直後だった為、当時は団地もがらんとしていて、今ほど活気のある地域ではなかった。
 中学生になった頃には団地にも家が増えてきて、朝には子どもたちの声で溢れるようになった。僕は自転車通学だったので、それをなんとなく微笑ましく見ていた。当時はそれを、微笑ましく見ることができていた。
 それは僕も子どもだったからだろう。いや、今でも年齢で言えば子どもではあるんだけど。それでもやっぱり、成長の中で、見えるものは見え方が変わってくるものである。無邪気なものを、邪気がないものを、僕は真っ直ぐな目で、濁っていない目で見れなくなっていたのだ――。
 大人になったんだと、なってしまったんだと、別に嘆くわけではないけれど、やっぱりそんな風にネガティブな意味として捉えて考えてしまうのが現状だった。
「公園に自販機がないって不便だねー。はい、オレンジジュース」
「ありがとうございます。けど、別にわざわざ買ってこなくても、僕の家はすぐそこなわけですし、飲み物くらいなら持ってこれましたよ」
「いいの! これでも年上なんだから。それに栄養ドリンクってなんだか後味悪いでしょ。お口直し用だよ」
 自分の販売品をそんな風に言っていいのか……。
 そしてオレンジジュースというチョイス。どうしてもジュースを奢りたいという彼女に対し、咄嗟に出た言葉がオレンジジュースだったわけだけど――
「オレンジジュースっていかにも子どもの飲み物って感じですよね」
 彼女は首を傾げた。
「そうかなあ。今ではコーラとか、メジャーな炭酸飲料のほうが子どもって感じがするけどね。時代の変化かな」
 言われてみればそうかもしれない。昔と比べて、今はコーラだったりラムネだったり、そういったもののほうが子どもは求める傾向にあるような気もする。
 そこで僕は咄嗟に、オレンジジュースをチョイスした自分を恥ずかしく思った。きっと深層心理では、逆に子どもっぽいものを注文することで大人っぽさをアピールしようとしていたのかもしれない。
 それがまあ、結果として真逆の行為になってしまったわけだけど。
 今の子どもは炭酸飲料を好む。これは脳内のメモ帳にしっかり刻んでおこう。
「そういえば、名前も名乗ってなかったよね。あたしは竹内春菜(たけうちはるな)。ちょうど2年前に君と同じ克山東(かつやまひがし)高校を卒業したの。就職するか進学するかでずっと迷ってて、迷ってる間に無味に時間過ごしちゃったダメ人間。よろしくね」
 なんて反応のし難い自己紹介なんだろう……。たまにいるよな、喋り方とセリフのテンションが揃ってない人。だけど、そういった人はどちらかに酷く偏っている傾向がある。この人の場合は――
「ほら、君も自己紹介!」
「あ、はい。そうですね」
 咳払いをし、呼吸を整える。
 自己紹介なんていつぶりだろう。高校入学以来だろうか。
「……えーと、名前は、倉耶彰久(くらやあきひさ)です。進学と言っていいのか微妙ですけど、通信制の大学に通うことになってます」
「へえー、なんで通信制にしたの?」
「人となるべく関わりたくないからですよ」
 即答。
 ここで僕は攻めた。自分の本質を全く見せない彼女に対し、どうにも我慢のならなかった僕は、そっち方面に会話を持っていくことにした。
 なんともネガティブな攻撃性である。
 僕が彼女を公園に誘ったのも、そういったネガティブな攻撃性に起因している。
 同じく灰色の世界を生きているであろう彼女に、竹内春菜という初対面にも等しい人に、僕は共感を共有してほしかったのだ。

 

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